厨二病の聖女と黒魔術師
金澤流都
黒魔術師「破滅させるとか怖い怖い怖い」
聖女は、厨二病であった。
それゆえ黒い服を好み、指ぬきグローブをつけ、白く輝く髪で顔を隠し、なにかあるたびに謎の呪文(聖女業務とはまったく関係ないどころか魔法体系に組み込まれていない、完全オリジナルのやつ)をボソボソと唱え、婚約者の王子をはじめとする王家の人々に気味悪がられていた。
聖女の両親である上級貴族の当主とその妻は、なんとか聖女が聖女らしい服を着て、聖女らしく、もっと言うと王子の婚約者らしく振る舞ってほしいと願っていた。それを言うと、聖女は決まってこう反論した。
「わたくしは闇に生きるもの。政略結婚なんてごめんですわ。自由に、居心地のいい暗がりにいたいのですわ」
政略結婚の側面もないわけではなかったが、もともと王子が生まれた日に王が矢を放ち、それが聖女の家の屋根にブッ刺さっただけの話である。完全に運よく王家に嫁げることになって幼い娘を抱えた貴族の一家は大喜びしたのだが、まさかその境遇のせいで聖女が厨二病に走るなんて、だれも考えもしなかったのだった。
市井の民たちの間では、王子さまのお妃に内定している聖女は気狂いだという噂まで広がっていた。
それはまずい、と王は王子に添わせる聖女の選び直しを考えていたのだが、そんなある日勇者が魔王を倒した、という知らせが舞い込んできた。
そうだ、勇者のパーティにいるゴリラみたいな女僧侶を聖女にして、王子に添わせよう。あの気狂いの娘は聖女の資格を剥奪してしまおう。王はそう考え、勇者の凱旋を待った。
半月ほどして辺境に送り込まれていた勇者たちが帰ってきた。勇者パーティにいた女僧侶は、旅立つ前以上にゴリラ度数が増していた。これを王子に添わせるのは……と王も悩むレベルだったが、それでも魔王を倒したというお墨付きがあるのだから、気狂いの貴族令嬢よりはマシであろうと女僧侶に打診すると、もちろんOKがでた。勇者といい関係ではないのか、と尋ねると、女僧侶曰く「勇者は優しすぎてなんか気持ち悪いからヤダ」とのことであった。
さて、元聖女はサックリと婚約を破棄され、眼帯姿で女僧侶と王子の結婚式を観ていた。もちろん眼帯はなにも目が悪くないのにつけているものである。
「……あんた、もともとの王子さまの結婚相手だった人だろ?」
薄暗がりからそんな声がして、元聖女は薄暗がりのほうを振り返った。そこには、勇者一行でいちばんの功労者だったのに誰にも顧みられず、ずっといじけていた黒魔術師がいた。
「その目はどうしたんだ?」
「ファッションですわ」
「ふぁ、ファッション……面白いお嬢さんだな」
「あなた、黒魔術師でしょう? 勇者一行の。そうだわ、わたくしを弟子にしてくださいませんこと?」
「……はい?」
「ですから、弟子にしていただきたいのですわ! わたくし、ずっと黒魔術を使うのに憧れていたんですの!」
「王子さまと結婚できる身分だったのにかい? そりゃあ……教えてやれんことはないが、どうしてこんな日陰の黒魔術なんざ使いたがる?」
元聖女はぐっと拳を握った。
「わたくしは聖女になって王子に嫁ぐ以上の価値がなかったのですわ。そんなこの国、黒魔術で破滅させてやりたいんですの」
完全なる厨二病の気配に黒魔術師は怖気付いたが、これから数年後、黒魔術師はその弟子の女黒魔術師とともに、実は死んでいなかった魔王を完全にやっつけて勇者以上の栄誉を得るのは、また別のお話。
厨二病の聖女と黒魔術師 金澤流都 @kanezya
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