遅い雪に春の気配も焦らされて

snowdrop

春はすぐそこ

 すきな色はなんですか?

 ありふれた質問に、あなたなら、なんと答えるだろう。

 幼い子供だったころ。聞かれたらまよわず、青と返していた。

 青といっても、淡い透明なブルーもあれば、深くて濃い藍染めの色もある。

 どちらかといえば、濃紺がすきだった。

 海よりも深く、空よりも広い世界にあこがれていたのかもしれない。

 着ているものや靴、持ちもののどこかに取り入れるほど、身近に感じていたかった。

 やがて子供から大人へと成長するなかで、人の心もまた移りゆき、すきな色も変わっていった。

 黒を着るようになったのは、就職活動をはじめたからだったか。あるいは告別式の参列だったか。

 好みというより、必要に迫られて染まったに過ぎない。

 社会という世に流され、色だけでなく形も合わせるようになっていく。

 一時期、黄色を着るようになる。

 決して、六甲おろしを高らかに歌い上げたかったわけではない。

 赤いワンピースを着た友達をみたとき、色から元気をもらうことを教えてもらったのがきっかけだった。赤なんて着るんだと、思ったものである。

 その後、冬の寒さから暖を求めるように、季節限定ではあるけれど、赤色を選び出す。

 暖色系の朱色やワインレッドなどであり、むしろ血のように真っ赤な色は、生理的に受け付けなかった。

 いまでは、黒や白を着ることが多い。

 使っているパソコンを前に、よくよく思い出してみると、潜在的な色の好みは白だったと気づく。

 記憶に残っているはじまりの色は、白だった。

 けがれなき純白の世界に、清浄さと安らぎを得ていたのだ。

 そんな白の中に、淡い青空と若々しい新緑をみつけたからこそ、青を好きになったのだろう。

 それにひきかえ、なんとこの世は雑色にまみれていることか。

 統一感などまるでない。

 色によって、人の心も左右されるという。

 世を乱す出来事が絶えないのは、色のせいに違いない。

 辺り一面を雪に覆われし原野をみながら、次の季節の到来を、静かに待ちわびるのだった。

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