第2話 優勝者はまさかの……
周りが静まり返る中、いよいよスタート時間となった。
「白や黒、赤、黄色等の様々な色をした車が並ぶ中、なんとショベルカー選手がフライング気味に飛び出しました!」
「気味ではなく、完全にフライングです。まだ信号は赤のままですからね」
「今、入った情報によると、どうやらショベルカー選手は色盲のようです。なので、これは違反にはならないみたいですが……ああっ! そのショベルカー選手が穴を掘って他の選手を妨害しようとしています。先程作戦を考えていると言っていましたが、どうやらこのことだったみたいです!」
ショベルカーは懸命に穴を掘って妨害しようとしたが、選手たちは皆それを避けて走行したため、結局意味のないものとなってしまった。
「無意味なことをしたせいで、出遅れてしまったショベルカー選手が今、追い掛けようとしていますが……ああっ! なんとショベルカー選手が、自らが掘った穴に落ちてしまいました。これではもう棄権せざるを得ません。栗田さん、彼は一体何がしたかったのでしょう?」
「それは私にも分かりません。ただ、一つ言えるのは、彼は墓穴を掘ったということですね」
「なるほど。まさに言い得て妙ですね。これでショベルカー選手は脱落となり、残りは7選手となりました」
その後、パトカーが先頭に立ちレースを引っ張っていたが、何を思ったか彼は突然パトランプを鳴らしながら、コース外へ消えていった。
「おおっと! パトカー選手が突然サーキットから飛び出していきました。栗田さん、一体何があったんでしょう?」
「恐らく無線で事件の報せがあって、現場へ出動したのだと思います」
「なるほど。それでは仕方ありませんね。これでパトカー選手は脱落となり、残りは6台となりました」
レースはその後、ダンプカー以外の5選手が横並びで走る展開となった。
「5選手が横一線で走る中、ダンプカー選手だけ遅れていますが……ああっ! ここでダンプカー選手が、荷台に載せている荷物をすべて地面にぶちまけました。栗田さん、これは一体どういうことでしょうか?」
「恐らく彼は、他の選手を妨害しようと企んでいたのでしょう。しかし、そうするためにはスタートダッシュをして、他の選手より前に出る必要があったのですが、いかんせん重量があるためそれができなかったんでしょうね」
「なるほど。つまり完全な作戦ミスということですね。今更追いかけても手遅れだと思いますが、彼も頑張っているので、それは言わずにおきましょう」
レースはその後、タクシーが先頭に立ったが、突然彼の前に杖を持った老人が現れ、ゆっくりと手を挙げた。
「おおっと! タクシー選手が老人を乗せて、コース外へ消えていきました。栗田さん、一体彼に何が起こったのでしょうか?」
「一言で言うと、タクシーとしての仕事をまっとうしたという事でしょう」
「なるほど。先程のパトカー選手といい、さすが代表に選ばれただけのことはありますね。残念ですがこれでタクシー選手は脱落となり、残りは5選手となりました」
レースはその後、ドクターイエローが先頭に立ったが、何を思ったか彼は突然コースを外れ、壁に向かって走り出した。
「ああっ! ドクターイエロー選手が突然コースを外れ、壁を補修しています。栗田さん、これはどういう事でしょうか?」
「どうしても壁の傷が気になったのでしょうね。ドクターイエローとしての使命が、彼にこのような行動をとらせたのだと思います」
「なるほど。これでドクターイエロー選手は脱落となり、残りは4選手となりました」
レースはその後、消防車が先頭に立ったが、すぐ後ろを走っていた救急車が車に積んでいた担架で、消防車をガンガン殴り始めた。
それに怒った消防車は、自らのホースで救急車に向かって放水し、そのままコース外まで押しやった。
「ああっ! 119対決は、消防車選手に軍配が上がりました! これで救急車選手は脱落となり、残りは3選手となりました」
レースはそのまま消防車が先頭に立ったが、それまで黙々と走っていたクレーン車が消防車のはしごにフックを引っ掛け、思い切り上に吊り上げた。
「おおっと! クレーン車選手がいきなり消防車選手を吊り上げたと思ったら、今度は思い切り地上に叩きつけました! それにより、消防車選手は見るも無残な形となってしまいました。これで残るはついに2選手となったわけですが、ダンプカー選手はまだはるか後方にいるので、クレーン車選手の優勝は濃厚かと思われます」
レースはそのままクレーン車の優勝かと思われたが、ゴール寸前になって突然地震が起こり、そのせいで彼は横倒しになってしまった。
「ああっ! なんとクレーン車選手がゴール寸前で倒れてしまいました。これではもう起き上がるのは不可能でしょう。先程のインタビューで彼は地震さえ起きなければ自分が優勝すると言っていましたが、まさにそれが現実のものとなりました。これで全選手が脱落となったわけですが……いや! ダンプカー選手がまだ残っていました。彼は突然の地震に倒れることなく、ゴールに向かって懸命に走っております。そして今、ゴールテープを切りました! まさかの結果になりましたが、栗田さんはこの結果を予想していましたか?」
「いえ。ハッキリ言って、途中最下位になった時点で、彼の優勝は有り得ないと思っていました。しかし結果的には、最後まで優勝への色気を示さなかったダンプカー選手が勝ったわけですから、勝負とは面白いものですね。またレース全体を通して言えるのは、各選手がそれぞれ独自の色を出して、とても楽しめたということですね」
「何はともあれ、第一回乗り物王選手権大会はダンプカー選手の優勝となりました。なお次のお題によっては、また近いうちに皆さんとお会いできるかもしれません。それでは、さよならー」
了
第一回乗り物王選手権 丸子稔 @kyuukomu
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