第一回乗り物王選手権
丸子稔
第1話 辛口の選手紹介
「視聴者の皆様、こんにちは。いよいよ、第一回乗り物王選手権大会が始まろうとしています。実況はわたくし杉原が務めさせていただきます。そして解説はこの道三十年の大ベテラン、栗田さんです。栗田さん、よろしくお願いします」
「よろしくどうぞ」
「昨年もこのKACの時期に、我々は二度ほど出番がありましたが、今年もまた呼ばれましたね」
「そうですね。前回はぬいぐるみの競争と昆虫の競争で、今回は乗り物の競争ということですが、昨年に比べて今年は随分マシになっていますね。なんせ昨年は、ぬいぐるみや昆虫がグラウンドを走り回るという、あり得ない状況を解説させられるハメになりましたからね」
「それがそうとも言い切れないんですよ。今回のレースは人が運転するのではなく、乗り物が単独で走ることになっているので」
「えーと、それは自動運転という意味ですか?」
「いえ。乗り物が自らの意思で走るという意味です。さあ、それでは時間もあまりないので、ここでルールについて簡単に説明します。ここ筑波サーキットのコースを一番速く走り切った選手が優勝となります。なお、他のレースと違うところは妨害ありという点です。その妨害も出場者同士と外部によるものの二種類あり、選手は最後まで油断は禁物となっています。さて、それではコースにいるレポーターの田中さんを呼んでみましょう。田中さーん!」
「はーい! こちら田中です」
「それでは選手の紹介をお願いします」
「分かりました。それではまず一コースのパトカー選手、今の心境を聞かせてください」
「そうですね。今日は警察の威信にかけて、負けるわけにはいかないですね」
「何か作戦は考えていますか」
「そんなものはありません。というか、私に限って、そんなものはまったく必要ありませんよ。はははっ!」
「何がおかしいのかよく分かりませんが、とりあえず次にいきましょう。では二コースのドクターイエロー選手、今日のコンディションはどうですか?」
「我々は不具合を直すのが仕事なので、コンディションは常に整っています」
「ずばり、優勝の自信はありますか?」
「無ければ、ここには来てませんよ」
「まあ、連れてきたのは、我々人間なんですけどね。それでは次に三コースのショベルカー選手。キャタピラーの分だけ、他の選手と比べて不利かと思われますが、ご自身はどのように考えているのですか?」
「そうですね。まともにいけば勝負にならないので、早い段階である作戦を実行しようと思っています」
「作戦とは?」
「やだなー。今言ったら、みんなが警戒するじゃないですか。はははっ!」
「まあ、作戦があると言った時点で、他の選手は警戒してるんですけどね。それでは次に、四コースの救急車選手。体調の方はどうですか?」
「バッチリだ。けが人や病人を乗せるのが俺の仕事なのに、その本人が体調が悪くては、シャレにならないからな」
「なるほど。これは訊いた私が馬鹿だったみたいですね。それでは次に五コースの消防車選手、全国の消防署を代表して選ばれた今の心境を聞かせてください」
「やけにプレッシャー掛けるじゃないですか。俺はそんなことでビビるほど、やわなメンタルはしていないので」
「別にそんなつもりで言ったわけではないのですが、そう思ったのならそれでいいです。それでは次に、六コースのダンプカー選手。なんでこんなに荷物を載せてるんですか?」
「当然、ある作戦を実行するためですよ。はははっ!」
「なんとなくその作戦は分かりましたが、他の選手の手前ここでは言わずにおきましょう。それでは次に、七コースのタクシー選手。ずばり優勝する自信はありますか?」
「はい。混んでる道をいかに回避して走るのかが僕の特徴なので、今日はその特徴を活かしたいと思います」
「回避もなにも、コースは一つしかないんですけどね。まあ精々頑張ってください。それでは最後に、八コースのクレーン車選手。この記念すべき大会に出場できたことをどう思っていますか?」
「そうですね。私はこの中では比較的地味な存在ですが、せっかく選ばれたからには優勝を狙いたいと思います」
「ずばり、優勝の自信は?」
「そうですね。地震さえ起きなければ、優勝する自信はあります」
「分かりました。自信と地震を掛けて、ドヤ顔のクレーン選手ですが、まったく面白くないことは、この際言わずにおきましょう。それではこれでインタビューを終了しようと思います」
「さて、選手紹介も終わり、いよいよレースが始まろうとしていますが、栗田さんはどの選手に注目していますか?」
「そうですね。やはり一番の見所は救急車と消防車の119対決ですね。長年ライバルと言われている両者が、奇しくも隣のレーンになったことで、どのような走りを見せるか見ものですね」
「なるほど。では、これを読んでいる皆さんも誰が優勝するか予想してみてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます