チョコマカロンとポン太のはなし

倉沢トモエ

チョコマカロンとポン太のはなし

 フランボワーズの鮮やかな紅色。ピスタチオの緑。レモンの黄色。オレンジの橙。チョコレートの薄茶色。


「きれいですねえ」


 うちに住んでいる子だぬきのポン太が感心している。


「佐々木さんは遠くに行ってしまうんですか?」


 このマカロンは、職場の先輩から定年退職のご挨拶のときにいただいたのだ。


「今度はポン太がおみやげを持って会いに行きたいです」


 新幹線にポン太は乗れるのかな。


「キャリーに入らなきゃいけないかもよ」

「そんなに赤ちゃんじゃありません!」


 なにか憤慨しはじめた。

 キャリーは赤ちゃんが入るものなんだろうか。たぬきの常識はまだよくわからないところがある。


「佐々木さん、娘さんのお家で暮らすんですって。お孫さんまだ赤ちゃんらしいから、きっとにぎやかだね」

「赤ちゃんに会いたいです!」


 そのへんはご都合聞かなきゃいけないかなあ。でもポン太は子供と仲良しになるのがうまいから、赤ちゃんの時期が過ぎた頃に会いに行っても喜んでもらえるかも。


「新幹線に乗りましょう!」


 何かに火が付いたようだ。


「じゃあ、キャリー選びに行こうか」


 たぬきの乗車の前例があるかどうかわからないけど、多分キャリーじゃないと許可されない。


「いいえ! 子供に化ければいいのです! 子供料金は半額です!」

「え、化けられたっけ?」


 とたんに静かになった。


「うう……」


 ポン太は、人間の町でこうして暮らしているけれど、実は化けられない。


「どうしたの?」


 急に背中を丸めはじめた。

 そうしてすっかりまん丸くなって。


「マカロンです!」


 いや、チョコレートのマカロンと、たしかに同じ色だけれど。


「キャリーにしようよ」

「化けられなくて、キャリーに入るのは、赤ちゃんです!」


 そういうことか。


「じゃあさあ、マカロンに化ける勉強に、ひとつ食べようよ」


 私がお茶を入れると、大きなマカロンはにこにこ顔のポン太に戻った。

 化ける特訓をするべきなのか、それともキャリーを選ぶか。

 どっちがいいのかなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チョコマカロンとポン太のはなし 倉沢トモエ @kisaragi_01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ