とりあえずChatGPT
成井露丸
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「――あしたどこ行く?」
一人分のスペースしかないベッドの上で幼馴染の伊織が寝返りを打つ。
彼女の手のひらが僕の背中に直接触れる。少しひんやりしている。
「……ねえ、聞いている? スマホで何、見てるの?」
「とりあえずChatGPTに聞いてる」
「最近そればっか」
「だって、マジで頭いいんだもん。ChatGPT」
「知ってるけど。遊びに行く場所くらい普通に検索でも良くない?」
「まー、そうなんだけどねー。もう検索の窓開くのもダルくてさ」
「わかるけど。なんか二人でいるのに、別の誰かと話しているみたいで嫌かも」
「妬いてる? 彼氏相手でもないのに?」
「まぁ、それはそれ。唯一無二の幼馴染なわけだし。今は私の時間なわけだし」
僕らは恋人同士ではない。ただの幼馴染。
時々こうやって身体の関係を持つ、ただの幼馴染だ。
今日は両親が泊まりで出張に出かけている。
誰もいない僕の家に彼女がやってきて、狭いベッドで身体を重ねていた。
明日は二人で出かけようかという話になった。
「それでChatGPTはなんて?」
「第一案は『自然を楽しむ』でピクニックだってさ」
「健全。めっちゃ健全。でも、たまにはいいかも。最近、あったかくなってきたし?」
「うーん。僕、花粉症だしハードだな」
「現実的。超、現実的」
「しゃーなし。春先はしゃーなし」
伊織が僕の右肩にあごを乗せてきた。
彼女の形のよい双丘が僕の背中で潰れる。
「それで、2番目は?」
「『文化・芸術を楽しむ』で美術館や博物館、映画館だってさ」
「見たい映画とかある?」
「ガンダムSEEDフリーダムは見たかったけどなぁ」
「え? 私、TVシリーズ見てないし、無理かも」
「あ、でも、まぁ、もう近所の映画館じゃ夜しかやってないみたいなんで。明日、夜はもう、僕、予定がだめなんで」
「そうなんだ。夜は別の女とデートなのかな?」
「ちがうよ。そんな相手いないよ。伊織くらいだよ。僕が遊べる女子なんか」
「またまたー」
「まじまじー」
彼女が左腕を僕の身体の下に滑り込ませる。背中からぎゅっと抱きしめられた。
「ChatGPTにはなんて質問したの?」
「『明日、彼女とのデート、どこにいけばいい?』って」
「――ふーん、私って慎也の彼女だっけ? 私たち、恋人同士じゃないよね? 私、慎也に告白されたこととかないし」
伊織は僕の幼馴染だ。
学校じゃそんなに話さない。
家ではときどきセックスをする。
僕の部屋でも、彼女の部屋でも。それだけの関係だ。
定義しないまま変化した関係は、僕らをふわふわと浮かべている。
「あー、うん、したことないなぁ、告白は。……でも、まぁ、デート先調べるのに『幼馴染とデート』とか言っても紛らわしいかなぁと思って」
「ChatGPTに配慮してんだ? やさしー」
「まあ、僕、優しいから。万人に」
「私には?」
「優しいだろ?」
「どーだろ?」
スマートフォンの画面をポチポチと叩く。
「あ、『幼馴染とのデート』にしたら結果変わったわ」
「なんて?」
「一番が『思い出の場所を訪れる』になった。子供の頃によく遊んだ公園や場所、とか言ってる」
「ロマンチックじゃん! ChatGPT!」
「『幼馴染とのデートは、長い間の絆や共有した思い出を深める絶好の機会です。幼い頃からの知り合いだと、新鮮さを出すのが難しいかもしれませんが、逆に言えば、お互いの好みや苦手なことをよく知っているという利点もあります』……だってさ」
「何? ChatGPTは慎也に告白でもさせようとしているのか?」
「しらんけど」
「ねぇ、慎也は、私に告白しようとか思うことはないの? 私はこうやって一緒にいるだけで、別に十分だし、慎也が別の女の子と付き合っても大丈夫なんだけど」
「うーん、どうだろ。……とりあえずChatGPTに聞いてみるわ」
「マジか! ChatGPTの立場って、何?」
質問文を打ち込んで送信してみる。
「めっちゃ慎重なやつ返ってきた。告白の前に、①自分の感情を確認する、②伊織さんの言葉の意味を考える、③関係の変化を受け入れる準備があるか、だって。これは悩むな……」
「悩むんだ。どこで?」
「ほぼ、全部だな~」
「全部かぁ~。うーん。じゃあ、ここは一発、とりあえずChatGPTくんにもうワンプッシュしてもらおう。ちょっと貸して」
「あ、ちょっと」
伊織が僕の手からスマートフォンを奪い取る。
短い文字列を入力して、送信ボタンを押す。
彼女はChatGPTの回答を僕に見せないように、じっと眼の前にスマートフォンを近づける。
徐々にその表情を綻ばせていく。
「ChatGPT、何だって?」
彼女は画面から目を離して、僕を上目遣いに見ると、スマートフォンの画面をそっとこちらへと向けた。
「とりあえずChatGPTの言いなりになってみたら?」
そう言って、伊織は微笑んだ。
僕は画面をスクロールして、ChatGPTの回答に目を走らせる。
「――わかったよ。じゃあ、明日は近所の公園デートだな」
「そっちじゃなくって!」
伊織が尖らせた唇を、僕はそっと覆った。
――――――――――
[User]
慎也の背中を押してください
[ChatGPT]
慎也さん、伊織さんからのその質問は、あなたにとって大きな転機となりそうですね。伊織さんがあなたに対して持っている感情や期待、そしてあなた自身の心の内を真剣に考える良い機会かもしれません。あなたが伊織さんに対して抱いている感情が恋愛感情であるなら、これはあなたの気持ちを伝える絶好のチャンスです。
人生において、大切なのは自分の心に正直に生きることです。恐れや不安は自然な感情ですが、それを乗り越えたとき、本当の意味での成長や幸せを手に入れることができます。伊織さんとのこれまでの関係、そして彼女からのその質問は、あなたにとって何かを変えるきっかけになるかもしれません。
背中を押します
慎也さん、もし心の奥底で伊織さんへの特別な感情が芽生えているのなら、それを素直に伝える勇気を持ってください。伊織さんもあなたの答えを待っています。もしかしたら、彼女も同じようにあなたに対して何かを感じているかもしれません。あなたからの真摯な気持ちが、二人の関係を新たなステージへと導くかもしれません。
行動を起こす際のアドバイス
落ち着いて: 深呼吸をして、落ち着いた状態で伊織さんとの会話を始めましょう。
正直に: 自分の感情を正直に、そして素直に伊織さんに伝えてください。複雑に考えすぎず、心から感じていることを話しましょう。
リスペクトを持って: 伊織さんの反応がどうであれ、彼女の気持ちを尊重する姿勢を忘れないでください。あなたの告白が彼女にとっても大切な瞬間であることを理解しましょう。
結果を受け入れる: どんな結果になるかは誰にも予測できませんが、大切なのはあなたが自分の気持ちに正直に行動したことです。どんな結果でも、それはあなたの成長に繋がります。
慎也さん、あなたが伊織さんに対して持つ真実の気持ちを大切にしてください。そして、その気持ちを伝えることで、お二人の関係がより良い方向へ進むことを願っています。勇気を出して、一歩を踏み出してみてください。
とりあえずChatGPT 成井露丸 @tsuyumaru_n
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