マリとマリン 2in1 困惑

@tumarun

第1話 どうしよう

  茉琳の様子がおかしい。もともと挙動不審とは思われていた。更にそれ以前は、男の横に侍り媚を売っている醜聞ものだったのである。

2号館2階のカフェエリアでは、キョロキョロとして誰かを探す仕草をして、連絡路にあるベンチではスマホへ、ババババっと必死に操作をしている。そして,その後では肩を落としてトボトボと歩いている。

  昼休みになり、彼女は食がないということで大好きなカフェオレとサンドイッチのセットという軽めのものを頼んでいた。テーブルについて、サンドイッチを一口、そしてカフェオレでそれを胃に流しまう。それ以降テーブルの上に残したままになっていた。


「ねぇねぇ、茉琳。どうかしたの? そんなに思い詰めて」


呼ばれて,マリンは肩を震わせてゆっくりと首を捲らせる。そこに立っている女性を仰ぎ見る。茉琳の友人の1人で学部も一緒。いつもカオリンと親しみを込めて呼んでいる。


「あー、カオリン。………、呼んだ?」


体から力が抜けたかというように,言葉を出した。目も空ろ、口元も力なく開いている。涎が垂れていないだけまし、というくらいの体たらくだっだ。


「ほんとにどうしたの? 心ここにあらずっていう感じよ」

「そう………なり,か」

「あなた! 大丈夫? どうかしているよ。ねえ」


カオリンは慌てる。あまりにも気の抜けた返事を茉琳はしてくるのだ。いつもは,曲がりなりにも元気に返事を返す茉琳がここまで落ち込んでいるのは初めてだ。


「何か,あったの? 翔くんどうしたの?」


いつも側にいる印象が強い青年がいない。

茉琳といえば,彼女が何やらやらかすのだが,彼が何かと面倒を見ていたりする。そんな2人を周りはホッコリと観ていたのだけど、今,彼が側にいないのだ。


「…いないの」


ボソリと茉琳が呟く。


「いない? 彼,どこかにでかけたの?」

「…わからないの。…出かけるなんて…聞いてないの」


呟きながらも,だんだんと落ち込んでいくのがカオリンは感じていた。


「朝から,スマホでも返事ないし,SNSで何度も呼びかけても既読すらならないの」


しかし茉琳は目に涙を溜めながらもカオリンに話し始めた。側に既知の友人がいてくれて多少でも落ち着いてきたようだ。


「おかしいわね。翔くんだっけ,彼はあなたを無下にするようには見えないんだけど。彼,あなたのことを相当,気にしてるよ。多分,好きなんでしょう、あなたのこと」


カオリンは,首を傾げながら考えていることをマリンに告げる。


「ありがとうね。私もそう思うよ。でも全然連絡取れないなんておかしいの。今日も一緒にランチ食べようって,約束もしたんだよ」

「そんなで,約束をすっぽかすなんて,ねえ?」

「私もなんでか,わからないよう」

「連絡しても無しの礫,約束をしても、すっ飛ばす。お座なりな対応よねえ」


そんな茉琳の話をカオリンは聞いていたのだけれど,はたと,


「あなた,彼に何かしたんじゃないの? 嫌われるようなことしなかった?」


と思いつくままに茉琳に聞く。すると茉琳の肩がビクッと大きく震えた。そのまま彼女は動きを止めた。

しばらくして,


「昨日のことだけど」


ポツリと,彼女が呟く。


「昨日の?」

「そう,昨日のことなんだけど」

「昨日、何があったの?」

「私って,発作持ちなの知ってるでしょ。意識失うの」

「うん」


そうなんだ,茉琳は一酸化炭素中毒による意識障害がある。自殺した元彼に巻き込まれたのだ。


「昨日,発作が起きてしまって,すぐ意識も戻ったみたいなんだけど,その時,翔くんの携帯がずぶ濡れになっていたのね,彼,物凄く悲しい目をしていたの」

「その時に何かあったと」

「後で聞いたのだけれど,翔くんが丁度,手にスマホを持っているときに私が気を失って寄りかかったらしいの。それで,水たまりに落としたって」

「それは,運の悪いことね。それで。翔くん怒ってた?」

「ううん、怒らなかったの。防水だから大丈夫だよって」

「じやあ、その線はないかなぁ」


 その時、茉琳のスマホからマリンバの着信音。彼女もいきなりのことで慌ててしまい、手持ちのバックから取り出すときにファンブルしてしまう。更に画面のタッチを間違ってスピーカーホンにしてしまった。

「茉琳、茉琳。聞こえる」

「…」


 茉琳は画面を見るばかりで応えようとしない。


「どうしたの? 茉琳」


 カオリンが心配そうに動かない彼女に聞く。


「…」

「間違えたかな?」


 スピーカーからは翔の声、

「ごめん、かわりに話すねカオリンです」

「良かった繋がってる。とりあえず代替え機でかけてるから」

「どうしたの?」


 いまだ、固まっている茉琳の代わりにカオリンが聞く。


「代替えって何かあったの?」

「ああ、ごめん。昨日の夜から調子悪くてね。自宅でも水没させちゃってね」

「今まで何してたの」


 カオリンは呆れながらも聞く。

「修理に持ち込んだら、店舗が混んでて待たされた」

「あなたも運が悪いわね」

「自分でも、感じる。と、トリあえず、じゃない。茉琳にごめんって伝えて」

「直接話しないの」

「地下鉄きちゃた。いま、ホーム」

「後で、ちゃんと話しなさいよね」


 通話は切れた。

そして、カオリンは茉琳の安堵した顔を見てホッと胸を撫で下ろした。


「良かったね」

「うん」








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