世界最弱の魔王、「弱い弱い」と言われた男の話

しゃけ大根

第1話

俺は弱い。


そう自覚して生きてきた。俺はそれなりの期間魔王としてこの魔王城ノアルギナスに君臨している。


しかし、俺の魔王としての実力は他の追随を許さないほどに低い。ひょっとしたらその辺の魔族にも勝てないかもしれない。


だったら何故俺は魔王としてほかの魔族達から反対されないのか。それはこの世界の仕組みにある。


この世界では血筋が何よりも強く、実力よりも重視される程に評価される。俺の両親は先代魔王と、その妃なのである。


先代魔王である俺の父、クロード・オードニアは魔族としてとても強く、さらに高潔であった。魔族からの信頼も厚く、魔王としての実力は申し分ないほどであった。


俺は幸か不幸かその子供としてこの世に産まれてしまったということである。あの最強の魔王、クロードの息子なら魔王の座を次ぐにふさわしい魔族なんだろうと言われてきたのだが、蓋を開けてみれば世界最弱というわけ

だ。


世界最強の魔王クロード


世界最弱の魔王ヴァルギウス


見事な対比である。そんな俺はやはり他の魔族から虐げられながら生活しているのだ。俺だってこんな弱い自分でありたいと思っているわけが無い。


父さんのように強く、みんなから信頼され、背中を託してくれるようなそんな存在になりたいと小さい頃、父さんの背中を見て思っていた。


「はぁ、流石に疲れたな。」


「魔王様は弱いのです。弱いなりにできる事務仕事くらいどうにかしてください。」


こんな感じで秘書のソニファですらこの対応てある。基本的にみんな俺に対する当たりは強いのだ。


「そ、そうだよな。事務くらい出来なかったら、俺の存在価値が危うい…」


「そうですよ、それくらい自覚してください。というか心に刻んで絶対に忘れないでください。」


「は、はい…」


世にも珍しく、魔王が戦いに参加せず事務仕事をするという奇妙な光景がこの魔王城で見ることができる。


「魔王様、仕事が終わり次第念の為の魔術訓練を致します。魔力が極端少ないとはいえ撃てるかもしれない魔術のバリエーションは増やしておきましょう。」


「そ、そうだね。手早く終わらせるよ。」


この世界では魔力と呼ばれる力が存在する。その魔力を利用し魔術を放つのである。魔力は個人によって保有量が変わる。俺の魔力量は無いに等しい位の量なのである。


これが俺が最弱である最たる理由である。俺の魔力総量は下級魔術3発分ほど中級魔術を撃てるか撃てないかの量なのである。先代魔王クロードは世界最強であるが故、世界最高の魔力量を保有している。それの子どもが俺なんだから変な話だ。


俺は手早く今日分仕事を終え魔術訓練へと向かった。


「来たよソニファ。待たせたね。」


「遅いですが、まぁいいです。では今日は中級の雷魔術、ライトニング真槍スピアを撃ってみましょう。意地でも撃ってくださいね。」


「わ、わかった。中級だから撃てるかわかんないけど、やってみるね。」


中級は中級でも魔力消費量は若干違うそのため俺でも中級を撃つことが出来る。この仕様は俺にとってかなりの救いだ。


「よし。」


俺は体の中心にある魔力をかき集める。それを手の中心に持っていくように移動させる。それを雷の真槍という単語を考えながら手の中心から放つ。


これが魔術の発動方法だ。俺の場合魔力が少なすぎるため魔力を全て手の方に集中させる。そのため手の方に移動させたあとかなりの脱力感に襲われる。かなりのデメリットだ。


しかし今日はあまり脱力感がない。あまりなのでない訳では無いが普段よりは魔力消費が少なかったようだ。


「ソニファ!今日は行けそうだよ!」


「そうですか、ただでさえ撃てる魔術が少ないんですからちょっとした1歩ですね。まぁ1発しか撃てないと思いますが。」


「は、はは。それはあまり言わないで欲しいかな…」


「さっさと撃ってください。時間の無駄です。」


「わ、わかった。行きます!」


俺は手の中央に集まった魔力を感じそれを空中に放つ。


ライトニング真槍スピア!」


俺がそう言葉を発するとその魔力は雷のようにビリビリとした電気を帯びた槍のような形になり空中を物凄い速度で移動していった。その真槍はこの魔術訓練所の壁に突き刺さりビリビリと壁を照らしながら消えていった。


「やった!撃てたね、ソニファ!」


「たかが中級ごときでそんなに喜ばないでください。羽音が響いてうるさいです。」


「あ、ごめん。ソニファ。久しぶりに中級魔術を使えて興奮してしまった。」


俺が中級魔術を使ったのは4ヶ月ぶりと言ったところだろうか。1ヶ月に2、3回魔術訓練を行っているのでだいぶ久しぶりだ。これで俺の撃てる中級魔術は3つ目だ。着々と使える魔術が増えてきて嬉しい半面、複数の魔術を使えるようになった所で中級で1発や、下級で3発と撃てる回数の少ない俺の虚無感も同時に増していく。


しかし、今回は中級魔術を使ったのにあと下級魔術1回くらいなら使えそうなくらいの魔力が残っている。恐らく中級魔術の中でも雷の真槍は魔力消費が少ないのだろう。


今日は少しいいことが知れた。今日はよく眠れそう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界最弱の魔王、「弱い弱い」と言われた男の話 しゃけ大根 @syakedaikon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ