第11話 監禁生活の始まり
どれ程の時間眠っていたんだろう。
ゆっくりと目が覚める。すると私は天蓋付きベッドの上に居た。そして私の服装はとても可愛らしいワンピースになっていた。
唖然としていると真横から声をかけられる。
「おはようございます、勇者様」
「あ、アリシアさん……これは……?」
恐る恐る問いかけるとアリシアさんはにっこりと笑い、私の頬に手を触れた。
「この時をずぅーっと待ち望んでおりました……お慕いしております。勇者様……いえ、フィア様」
ドロリとした濁った瞳、甘ったるい声。
流石の私でもただ事ではないと理解した。すぐさま逃げ出し、扉を開けようとしたけれどかなり強い結界が貼られておりバチンと弾かれてしまった。
尻もちをついて唖然としていると、アリシアさんがゆっくり近付いてきて後ろから私を抱きしめてきた。
そして耳元で囁く。
「逃げちゃダメですよフィア様……折角二人きりになれたのですから」
「っ……アリシアさん、何かの冗談だよね?」
恐る恐る問いかけると、アリシアさんは首を横に振る。
そして『冗談なんかじゃありませんよ、私は本気です』と笑った。けれど目が笑っていなかった。
その表情に思わずゾッとしていると、アリシアさんは何かを思い出したかのように声を上げる。
「少々説得しないといけない方がいらっしゃいますね」
そう言いながら私から離れると、扉に向かって歩いていく。
「それでは少し出かけてきます。フィア様はゆっくり寛いでいて下さいね」
アリシアさんは微笑みを浮かべると部屋を出ていってしまった。
ゆっくりと立ち上がり、扉に近づき手を伸ばす。するとやはりバチンと弾かれてしまう。一歩扉から後ずさり、へたりとその場にまた座り込む。
「どうしてこんなことに……」
ポツリと呟き辺りを見渡す。
まさか閉じ込められるとは思わなかった。
私は辺りを見渡してみたけれど、この部屋から出るために使えそうなものは無さそうだ。けれど、必要最低限のものは揃っているようだった。
確かに広いし、この部屋だけでも不自由はしなさそうだけど、私は家に帰りたい。
素直に帰りたいと言ったとしても、帰してくれるはずがないよねぇ。
そんなことを考えながら部屋の中をうろうろと歩き回る。
ふと目に入ってきた本棚。一冊の本を手に取ると、それは私が読んでみたいと思っていた本だった。偶然だろうか、それとも―――いや、あまり深く考えるのはやめよう。流石に恐ろしくなってくる。
それにしても……好き? アリシアさんが、私のことを?
だからあの時グラーツ王子との婚約を反対していたのかな。でも、閉じ込めるのは少しやりすぎな気もするんだけど……
そんなことを考えながら手にした本をぼんやりと見つめる。
ずっと読んでみたかった本だし、ちょっとだけ読ませてもらおうかな。アリシアさんが帰ってきたら説得出来たら説得したい。
私はベッドへ戻り、腰掛けて本を開く。
*
約数十分後、扉が開いてアリシアさんが戻ってきた。表情はとても嬉しそうだ。
「ふふ、お父様を説得したのでお城の中"は"自由に移動できるようになりましたよ」
「お父様って……王様のこと?」
「はい」
にこにこと笑うアリシアさん。
アリシアさんが王様の娘だとは思わなかった。アリシアさんって王女様であり大聖女様だったんだね……初耳だよ。
そんな事よりも王様、私を監禁することを許したの? 反対して欲しかった……
「反対、されなかったの?」
「されましたが……反対したら自死しますと言ったらフィア様との同棲を許可していただけましたよ」
気になって問いかけると、あっさり教えてくれた。というか……説得じゃなくて半分脅しみたいなものじゃないか。
それに同棲じゃなくてほぼほぼ監禁では。というツッコミをしようかしまいか迷っていると、アリシアさんが口を開く。
「そんな事よりも、この部屋は気に入って下さりましたか?」
そんな事よりもって……でもまぁ、確かに悪くないとは思うけれど正直なことを言うと私は家に帰りたい。
「確かにいい部屋だと思う……けど、私は家に帰りたい、かな」
恐る恐るそう言うと、アリシアさんの瞳から光が消え、表情が曇り始める。
「私よりも、グラーツ王子を選ぶのですか?」
そんな事一言も言っていないのだけど……
どうしたものかと何も言えずに困っていると、アリシアさんの瞳がさらに暗く、暗く濁り始めた。
早くなにか答えないといけないのはわかっているけれど、どう言えばいいか分からない。グラーツ王子との婚約のことを言えばまた厄介なことになるのは目に見えている。
「私は家族が心配なんだよ。分かって欲しいな」
「……確かにご家族には心配をかけてしまうかもしれません。ですが、ここで手放したらフィア様がグラーツ王子の元へ行ってしまう……それだけは絶対に嫌なのです」
なので、行かせるわけにはいきません。
そうハッキリと言われてしまった。
どうしたものか……とりあえず大人しくこの部屋にいようかな。アリシアさんが心変わりしてくれるまで待とう。
心変わりしてくれる保障はどこにもないことは理解しているけれど、ほんの少しだけ期待しても良いと思った。だってアリシアさんはとても優しい女性だもの。
そんなことを考えていると、ぐぅとお腹が鳴った。
なんでこのタイミングでお腹が鳴ってしまったのだろう。でもこの重々しい雰囲気を和らげてくれたのは感謝しなければ。アリシアさんはくすくすと笑っている。私は苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「お腹、空いちゃった」
「もう日も落ちてきましたからね。夕ご飯を作ってきますね」
アリシアさんはそう言うと部屋を後にした。
足音が遠ざかっていくのをぼんやりと聞きながらベッドに横になる。
物の見事に説得は失敗に終わってしまったけれど、ほんの少しの希望を持ってこの部屋にいよう。もしかしたらってことがあるかもしれないからね。
けれどふとアリシアさんの濁った瞳、曇った表情を思い出して考え込む。
「家に帰してくれる日、来るといいなぁ」
ポツリと呟く。
そして暫くしてこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。ゆっくりと扉が開き、アリシアさんが料理を運んできた。
「今夜はパスタにしてみました。お口に合うと良いのですが」
そう言ってテーブルの上に置かれる。
私はベッドからおりてテーブルに近づくととても美味しそうな香りが食欲をそそった。
「美味しそう……」
「ふふ、食べていいですよ」
椅子に座り、フォークを手に取って一口分巻き取り、口に入れる。
「ん、美味しい……アリシアさんは本当に料理が上手なんだね」
素直に褒めると、アリシアさんは頬を少し赤く染めて『ありがとうございます』と呟いた。
私も料理はするけれどこんなに上手くは作れないからなぁ……今度教えてもらおうかな。そんな呑気なことを考えながらあっという間に平らげてしまった。
「これからは私が毎日3食作って差し上げますからね」
本当の同棲ならその言葉も嬉しいんだろうけれど、私は監禁されてる身だからなぁ……素直に喜ぶことが出来ない。
とりあえず微笑んでおくと、アリシアさんも微笑んでみせた。
*
逃げ出さないようにとアリシアさんに監視されつつお風呂も入らせてもらったけれど、正直ゆっくりすることは出来なかった。
部屋に戻るとまた結界を貼られ、外に出られなくされてしまった。そしてアリシアさんは『おやすみなさい、フィア様』と言うと私の頬に軽く口付けて自室へと戻って行った。
まさか監禁されるとは思わなかったな……日帰りするつもりでいたし、そう伝えていたから今頃心配しているだろうな……
「とりあえずもう遅いし寝よう」
そう呟いて私は目を閉じた。
魔王を倒した女勇者、ヤンデレ大聖女に監禁される 雪兎(ゆきうさぎ) @Snow_0913
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