第19話 未来へ
篠崎の真相を知ったあの日から、2年と少しが経過した。
僕らの現状は色々変わったとも言えるし、変わっていないとも言える。
まず。
僕らは現在それぞれ別々の大学へと進学し、キャンパスライフ1年目の夏休みに突入している。
僕は目標の大学に進学し、篠崎も目標の大学の特待生枠を勝ち取り、諸々の費用が大幅に削減された状態で進学することに成功している。
そんな篠崎には他にも変化があって、結論から言えば父親とは完全に縁を切ったということだ。僕んちへの泥棒で前科者になった父親に対して心底愛想を尽かせ、篠崎という名字を母方の「井上」に変更したほどである。
そして、父親との離縁をきっかけに母親と再会し、勝手に逃げたことを謝罪されたそうだ。篠崎はそれを水に流し、親子関係を取り戻したらしいので良かった。
それと、僕は実のところ篠崎を名字で呼ぶ関係ではなくなっている。篠崎改め美景とは、大学進学を機に僕の方から告白し、正式に付き合いを開始させた状態だったりする。それを母さんに報告したら、だいぶ喜んでくれたのが嬉しかった。
ちなみにだが、一応親父にも報告はしている。
反応は芳しくなかった。
親父は、美景の父親による泥棒騒動のときも多忙で家に居なかったりしたので、泥棒関係のことは母さんに丸投げで、美景=泥棒の娘とは気付いていなかったし、高校時代の僕らの同居についてもついぞ気付いていなかったものの、美景がけじめとしてすべてを打ち明けた結果、激怒したわけだ。
「お前は犯罪者の娘と付き合うのか! 嘆かわしい……家柄が悪すぎて私の面子にも関わってくるんだぞ! そんな娘とは縁を切れ!」
「うるせえ!」
だから僕も激怒した。生まれて初めて親父に逆らった。遅ればせながらの反抗期である。そのときの親父の驚いた表情といったら傑作と言う他なかった。従順だと思っていた僕の反抗によほど度肝を抜かしたらしい。
僕はそんなひるみがちな親父に啖呵を切り続け、最終的には「付き合うのを認めないなら僕があんたと縁を切ってやる!」と告げたところ、親父はあっさりと折れてしまったのが面白かった。反抗する息子への対処法が分からなかったようで、事ここに至って父親らしい接し方をしてこなかった経験不足が仇となったわけだ。
かくして、僕らは大手を振って付き合えることになった。
「――はい、今日はビーフシチューにしてみたわ」
「旨そうだ」
そんな報告劇がもう数日前のことで、この日は昼間にショッピングも兼ねたデートに出掛け、帰宅後の今は同棲中の部屋で夕飯タイムだ。
美景の料理はとても美味しくて、一度食べ始めたら基本的に無言になってしまう。夢中になりすぎて。
「ふふ、そんなにがっつかなくてもおかわりあるのに」
「ちょっとみっともないよな」
「ううん。夢中で食べてくれるのは嬉しいわ」
そう言って微笑む美景を見ていると、僕は幸せな気分になれる。関係性の始まり方はセフレだったけど、こうして付き合うところまで来られて良かったと思う。
美景のおかげで、僕は色々と変わることが出来た。
親父に従順な操り人形として育った僕が、親父に内緒で美景を匿ったり、先日のように逆らうことが出来たのは、間違いなく美景の影響だ。
美景と知り合っていなかったら、きっと僕は今もまだストレスを溜めながら勉強だけ頑張るロボットみたいな男だったのかもしれない。
「美景、ありがとうな」
「どうしたの急に?」
「いやさ、こうやって穏やかな日々を過ごせるようにしてくれた美景には感謝してもしきれないなと思って」
「何を言っているのよ、それは私のセリフだわ」
付け合わせのパンをちぎりながら、美景は嬉しそうに笑ってみせた。
「2年前までの苦しみをウソみたいに解消してくれた臣夜にこそ、私は感謝してもしきれない。おかげさまで私は気が楽になれて、今は毎日が楽しいから」
「美景……」
「だから、ありがとう。そしてこれからもよろしくね、で大丈夫?」
「ああ……もちろん」
19歳の夏。
まだ先の長い人生の序盤とも言えるこの段階で、すでに最愛のパートナーを見つけられている僕は本当に幸せ者だろう。
当然これからどうなっていくのかは未知数だが、それでもひとつだけ確かなことがあるとすれば、僕は美景を裏切らないし、美景も僕を裏切らないはずだ。
難あり家庭に生まれた者同士、将来もし子供が産まれたりしたならば、その子には100%の愛情を注いで育ててあげたいと思う。
もっとも、今はまだ美景と二人きりの時間を堪能させてもらうつもりだが。
了
――――――――――――
皆様、読了のほどありがとうございました。
クラスのグループLINEに「セ○レ欲しいなぁ」と誤爆したら、学校の偶像が立候補してきた 新原(あらばら) @siratakioisii
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