後編


それから5年。

あれ以来、私は黒瀬くんに連絡を取り合えず、卒業してしまった。

最後に送った言葉は5年前の作業が完成した時の写真のみ。

いざ何か送ろうとしたら、どうしても迷ってしまい連絡を取ることが出来なかった。


私は今でも彼のことが好きだった。


震える手でメッセージを書く。


『覚えていますか。橘です。……もしよろしければ駅前のカフェで会いませんか?』


何度も何度もメッセージを読み直す。

そして、送信ボタンを心を込めて押した。


そこから約30分後。

既読が付いた。

そして、スタンプで帰ってきた。


可愛いキャラクターが頭の上で丸を作っているスタンプだ。


その下には『時間はどうする?』と、あった。

私ははやく彼に会いたいという気持ちから『今すぐではだめですか?』と送る。

しばらくして、『OK』と返ってきた。


私は急いでクローゼットからお気に入りのワンピースを選んでカフェに向かって走り出す。





しばらくして、黒瀬くんもカフェに入ってきた。


「よお、橘」

「ひ、久しぶり……黒瀬くん」

「元気にしてたか?」

「うん」


無言が続く。

彼はポケットからスマホを取り出していじっていた。

私は、彼の指に目を奪われた。


「それ……、指輪?」

「あ、うん。先月に籍入れた」

「……え、あ……。……お幸せにね」

「もっちろん!ベリーハッピーになるから!!」

「……そっか。あの……誘っちゃってごめんね……」


私は立ち上がって、財布ごとテーブルにおいて虚ろな目でカフェから出て行った。

外は、忌々しいほど夕日で赤く染まった空がきれいだった。

でも、なんでだろう。

私が見たら空がかすんで見える。

雨かな?雨が降っているのかな?

……しょっぱい。

涙だ。私の涙だ。

でも、5年間も連絡を取り合えずにいた彼をなんで好きでいたんだろう。

なんで私はもっとコミュ力がなかったんだろう。


私は滲んでいる視界の中、彼へメッセージを送る。


『ほんとは、私は貴方のことが好きでした。今までありがとう』


私は彼の連絡先を消した。

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『トリあえず』 飛鳥部あかり @asukabe

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