『トリあえず』
飛鳥部あかり
前編
私は
ちょっとおバカだけど、運動神経はクラスで一番よくて、面白くて、優しくて、かっこよくて……いつの間にか私を含めるクラスの女子の半分は彼に夢中だった。
……でも、私と黒瀬くんは住んでいる世界が違った。
私は「陰キャ」。黒瀬くんは「陽キャ」。
私は「月」。黒瀬くんは「太陽」
だから、話しかけることすら私は躊躇してしまう。
ある日の朝。
私は日直だったので、日誌を取りに小走りで職員室に向かっていた。
「きゃっ」
「うおっ!?悪いっ!……大丈夫か?」
急いでいたせいで誰かにぶつかって転んでしまった。
ぶつかった相手は私に手を差し伸べてくれる。
私は急いで顔を上げて言葉に詰まる。
「……黒瀬、くん」
「はい!黒瀬くんです!!」
「……えっと……」
(ぶつかってごめんね。そっちこそ大丈夫?)
(ぶつかってごめんね。そっちこそ大丈夫?)
私は何度も同じ言葉を心の中で練習する。
大げさかもしれないけれど、鼓動が早くなる。
私は黒瀬くんの顔を見ることが出来ないまま早口で言った。
「ぶ、ぶつかって、ごめんね……。そっちこそ……だ、いじょうぶ?」
思い切って顔を上げると……黒瀬くんはもうそこにいなくて、遠くのお友達と喋っていた。
帰宅後。
私は色々考えた。
(黒瀬くんと釣り合うためには、私も少しオシャレにしないと……)
次の日の朝。
私は慣れないアイロンを使い髪の毛を整える。
お母さんの色付きリップを借りて唇を塗る。
爪のいっぽんいっぽんを丁寧に磨く。
まるで別人になったように私は変わった。
下駄箱前で複数人の女子に囲まれている黒瀬くんを見つけた。
(大丈夫。大丈夫。……今日の私はいつもの私と違う)
私は思いきって彼に言った。
「お、おはよう!……黒瀬くん」
すると黒瀬くんは太陽のように暖かい笑みを浮かべて返してくれた。
「おはよう。
名前……覚えてくれていたんだ……。
私は頬が紅潮するのが分かった。
その場から逃げるように、私はトイレに駆け込んだ。
それから数週間後。
私は挨拶は普通に黒瀬くんに出来るようになった。
少し無理はしているけれども、陽キャに近づいている気がした。
そんなある日。
グループ活動の班が黒瀬くんと一緒になった。
決められた時間内に終わらなさそうだったので、家に帰ってから分担することになった。
私は、今がチャンスだと思い勇気を出して言った。
「黒瀬くん……家での作業状況とかも確認したいから……連絡先、交換しない?」
「いーよ」
断られたり、無言になられたりしたらどうしようと思ったが、彼はすぐに了承してくれた。
家に帰って連絡を取る。
もちろん、作業の話だ。
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