第3話 時間稼ぎ
「マジでどこに行ったんだよあの子…!?」
口調を作る余裕もないほど焦りながら、そうつぶやく。
街中を駆け巡り、宿屋や飯屋、路地裏や下水など、手分けしながら探すが、全く見つからない。
街の人たちにも手伝ってもらっての大捜索だったのだが、彼女の手がかりは一切つかめなかった。
まあ、それもそうだろう。灰色のローブで顔を隠した背の低い人物なんていくらでもいる。声が可愛らしい少女だからと言っても他人の声なんて普段は気にしもしないだろう。
嫌な予感がする。
もしかして、もう竜の谷に?いやいや、そんなことあるわけがない。彼女は黒色のローブ、つまり低級魔術師だった。
中位竜に勝てるなんて思わないはずだし、自殺となることは馬鹿でもわかる。
だが、もしあの少女が竜の谷に行っていたら…
「コザトさん!領主様の館にもいませんでした…」
「おいおい…マジで言ってんのかよ…?」
そう報告しに来たシリア。これは本当にまずいかもしれないぞ…?
「今日は助かった。もう帰っていいぞ」
「コザトさんは…?」
「あ?俺も今日は引き上げだ。流石にこの時間に闇雲に探しても切りがないからな。じゃァなシリア」
そう彼女に適当に別れを告げ、コザトは一度家に帰り、ポーション類を皮袋に詰め、手が塞がらないようにその皮袋を腰にくくりつけて、外に出る。
「行くか…」
そのままコザトは、早足で暗い夜道を進むのであった。
▼
「……どこにいるんだ…?」
慎重に竜の谷を進む。竜の姿は今のところ見えない。
ここに来ていないのならば問題はない。巣穴の奥で襲われていたら…もう手遅れかもしれない。
最悪の事態を想像し、背筋が凍る。少し煽りすぎたか…?いや、でも普通竜の谷に飛び込むなんて馬鹿な真似…
「っ!」
そこで、眠る竜に向けて杖を構えた少女を目撃する。
待て!その声は竜の谷にいるという現実によって俺の心の中で留められた。
身体強化を使い、全力で少女のところまで走る。
(間に合え…!)
だが、一歩遅かった。
「消し飛びなさい…!」
杖から放たれた焔球は、そのまま竜に直撃して爆発する。
「やった!」
「やったじゃねェ!このクソガキィっ!」
彼女を抱え、全力で横に転がる。
その瞬間、さっきまで少女がいた場所は、まるでレーザービームのような光の束によって蹂躙された。
「クソッ…!なんてモンに手ェ出してんだてめェ!」
「あっ…貴方は…!」
突然抱えられた衝撃で固まっていた彼女は俺の正体に気がついたのか驚きの表情を浮かべる。
「邪魔しないでください!私はあの竜を…!」
「本当にあの竜を狙ってたのか!?無理に決まってんだろ!?!」
彼女を抱えたまま、俺は全力でその場を逃げ出す。
後ろからは真っ白な竜。その姿は、神々しさすら感じられる。
「無理…?そんなことどうでもいいんです!私はあの竜を…!」
「そりャ別にどうでもいいんだよ!あの化物に挑むんなら止めやしねェ!だが、それなら他のところにいるところ狙えよ!人を巻き込むんじゃねェ!」
「巻き込む…!?そんなつもりはありません!だから竜の谷の最奥で…!」
「だからアホなのか!?この竜の谷の竜共を傷つけたら、グローリアまで報復しに来るんだよ!」
「報復…?竜が?ありえません。竜は魔物ですよ?」
その言葉を聞いて、俺は呆れる。多分、この娘はどこかの貴族の少女なのだろう。
常識知らずで、既存の知識以外認められなくて、意地っ張り…本当に貴族は厄介だね!
「グヌぉぉぉぉっっっっ!!!」
雄叫びを上げながら、気合でブレスを躱す。
「それになんて奴に手ェ出してんだ!?白竜なんてお前見てェな初級魔術師が相手にするもんじゃねェだろ!?」
白竜。竜の谷の頂点に君臨する竜の王である。討伐難易度は脅威のSランク推奨。正真正銘の化物である。
今は谷の中だから逃げれているが、ここがもし草原とか開けた場所なら俺は一瞬でお陀仏だろう。幸いなことに、竜の谷を抜ければあとは森の中を一直線だ。
だが…
(このまま逃げるわけには…行かねェよなァ…?)
このまま俺が逃げるところといえば、グローリアになるのだろう。だが、それはまずい。
グローリアに行けば、確実に犠牲者が増えるだろう。急な襲撃で民間人にも被害が及ぶ可能性もある。一応竜の怒りを収める方法もあるが…絶対に使いたくない手段だ。
「よしっ…」
そこで俺は彼女に話す。
「おい、クソガキ。この竜は俺が足止めしてやる。だから今すぐ街に言って、このことをギルドマスターに話してこい」
「はぁ!?なぜ私が逃げなくては…」
「うっせェ!!黙ってろ!」
そう怒鳴ると、彼女は怯えた様子で口を閉じた。
「わかったか?わからねェならテメェをあの竜の前にぶん投げてやる」
「え!?……わかりました…」
「よし…それじゃァ頼んだぞォ!!」
その不服そうな返事を聞いた俺は、彼女を思いっきり前に投げる。
そして…
「おんどりゃァァァぁ!!!!!!」
あの魔術師の少女だけを見ていて、俺に一切の目を向けない竜に、下から全力で竜の顎に戦斧を叩きつけた。
「グオォォォォ!!?」
叩きつけられた竜は、なんだと俺の方を見る。認識されてしまったようだ。俺が敵ということを。
上位竜は、意外と寛容だ。目の前を通るくらいなら人間でも許してくれることもある。
だが、敵には一切の容赦はない。見える限りその愚か者を追い続け、消し飛ばすまで狙い続ける。執念深い竜は一度認識した獲物を逃すことはない。
竜の谷の竜は群れとしての意識が強く、どれか一匹を傷つければ、他の竜も襲ってくるというわけなのだが、運良く今はこの白竜王以外は不在のようだ。
つまり、グローリアに被害が及ばない方法とは、彼女を竜の前に差し出して逃げるというわけなのだ。
だが、俺にそんなことできるわけがない。
できることといえば…
「時間稼ぎってわけだよなァ?」
戦斧を担ぎ直し、身体強化を5倍まで引き上げる。
そして俺は竜に挑む。勝てるわけのない戦いと知りながらも。
三下冒険者は引き立て役の夢を見る。 LUNA @aosuzu114514
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