第22話:ダウナーちゃんと俺

 それから一時間程が経過した。


「いやー、物凄く美味しかったねー」

「あぁ、めっちゃ美味しかったな! いや本当に最高のお店を見つけてきてくれてありがとな!」

「ふふん、良いって事よー。健人が元気になってくれて私も嬉しいしさ」


 という事で俺達は目当てのケーキを食べ終えてお店から出てきた所だった。そして俺達はさっき食べたケーキの感想を語り合いながら帰っていた。


 しかしその時、ふと俺はとある事が気になってしまった。いやそれは凄く今更な事なんだけど……。


「……なぁ、物凄く今更なんだけどさ」

「うん? どうしたの健人?」

「いや、その……凄い今更なんだけどさ、そういえば坂野は何で俺の事を名前で呼ぶんだ? いや別に名前で呼んでくれて良いんだけどさ」

「んー? どういう事?」


 俺がふと気になったというのは坂野の名前呼びについての事だった。いや正直今更感な気もするけどさ。


「いや坂野って入学式で会った初日から俺の事を名前呼びしてるけど、でも他の男子の事は皆苗字で呼んでるじゃん? それって一体何でなんだろうって思ってさ」

「んー? 別に仲の良い友達の事を名前で呼ぶくらい普通の事じゃない?」

「ま、まぁそれはそうだとは思うんだけど……でも坂野って入学式に初めて会った時ずっと俺の事を名前呼びしてるじゃん?」


 俺達は入学式の日に出会って友達になった訳なんだけど、でも会った初日から坂野は俺の事を健人と名前で呼んできていたんだ。


「? それってつまり、健人は名前で呼ばれるのが嫌って事?」

「え? あ、い、いやそういうわけじゃなくて! 全然名前で呼んでくれて構わないんだけどさ! で、でも、他の男子と違って何で俺だけ名前で呼んでくれるのかなって思っただけだよ」

「ふぅん、なるほどね?」


 俺がそう尋ねていくと、幸村は腕を組みながら目を瞑って理由を考え始めていった。


「うーん、そうだねぇ……まぁ一言で端的にいうと、健人は苗字よりも名前の方が文字数短いからじゃないかな?」

「……は、はい?」

「いや、健人の苗字って“さかきばら”って言うじゃない? 苗字5文字ってちょっと長くない? それなら“けんと”の方が3文字で短いから呼びやすくて良いじゃん? あはは、これって中々に合理的な考え方だよねー」

「い、いやいや!? それって合理的か??」


 坂野は思いっきり悩んだ素振りを見せたかと思ったら、意味の分からない答えを返してきた。


「えー、いやどう考えても合理的でしょー? あ、なんなら健人だって私の事を名前で呼んでくれてもいいんだよ?」

「え……って、えっ!?」

「ほら、私の苗字は“さかの”で3文字だけど、名前は“あや”でたったの2文字だよ? ほら、時間効率で考えたら私の事も名前で呼んでいった方が良くない?」

「え……えっ!? い、いや、それはその……!」


 唐突に坂野が名前呼びをしてくれても全然構わないと言ってきたので、俺はビックリとして顔もどんどんと赤くなっていってしまった。


「うん? どしたの? そんな顔を真っ赤にさせちゃってさ?」

「えっ!? そ、そんなに俺の顔真っ赤になってるか?」

「うん、それはもう今までに見た事無いくらいに真っ赤になってるよ、あはは」


 どうやら俺の顔がとてつもない程に真っ赤になっていってしまっているようで、坂野はそれを指摘しながらケラケラと笑ってきた。


「でもそんなに顔を真っ赤にさせちゃってどうしたの?」

「え……? い、いや、だってその……俺が坂野の事を名前で呼んだりしちゃったらさ……そ、その、俺は全然大丈夫なんだけど、でもその……何だか周りから色々と勘違いとかされそうじゃないか……?」

「んー? あぁ、そう言う事?」


 俺がそう言うと坂野は納得したように頷いてきてくれた。


 まぁつまりは俺が坂野の事を名前呼びなんてしちゃったら、周りの生徒達が俺達が付き合ってるって勘違いするんじゃないかと思ってそう尋ねたわけだ。


「んー、でもそれって凄く今更な気がするんだけど?」

「……え? 今更ってどういう事だよ?」

「どういう事って……いや、もう周りからは私達は付き合ってるって思われている節があるからね」

「え? そうだったの……って、えぇえっ!? そ、そうなのか!?」


 坂野の言葉を聞いて俺は衝撃のあまり大きな声を出していってしまった。


「そうなのって……え? もしかして気づいてなかったの? だからクラスの女の子達は皆健人にチョコをあげなかったんじゃないの?」

「え……って、あっ! だ、だから俺だけクラスの女子達からチョコを貰えなかったのかよ!」


 今更になってバレンタインの時にクラスの女子達からチョコを一つも貰えなかった理由がわかった。


 な、なるほどな、周りの女子達は俺と坂野が付き合ってるって思っていたって事か……。


「……って、ちょ、ちょっと待ってくれよ! それ坂野も前々からクラスの連中が俺達が付き合ってるって噂してたのを知ってたって事だろ? それなのに坂野はそれ聞いて否定とかしなかったのかよ?」

「うん、別に。否定するのもメンドクサイし」

「ちょ、ちょいちょい! 流石にそれはめんどくさがり過ぎだって!」


 俺は盛大にツッコミを入れていった。坂野がものぐさな性格なのはよく知っているけど、でも流石にそれを否定しなかったというのはあまりにもめんどくさがりが過ぎるって!


「あはは、でも別に良いじゃん。こんな可愛い女の子を彼女だと周りの生徒達は思ってくれてるなんて男子からしたら嬉しい事でしょー?」

「い、いや、それはそうだけど……って、いや違う違う! さ、坂野はそれで良いのかよ? お、俺がその……彼氏だと勘違いされちゃったままでもさ……」

「んー? あはは、そんなの良いに決まってるじゃん。だってさー、私は別に健人以外の子と付き合いたいとか思ったりしてないしさ」

「そ、そうなのか……って、えっ!? あ、あれ……それってつまり……ど、どういう意味だよ?」


 何だか坂野は凄まじい爆弾発言をかましてきた気がするんだけど……でも俺の頭の処理が追いつかずにもう一度聞き返してしまった。


「あはは、何でもないよ。それで話を戻すんだけどさ、私の事を名前呼びしても構わないって話だったと思うんだけど……せっかくだから試しに一回名前で呼んでみる?」

「え……あ、い、いや……さ、流石に“あや”って名前呼びをするのはちょっとハードルが高すぎるから許してくれ……」


 俺は坂野に対して頭を下げながらそんな情けない言葉を送っていった。しかし坂野はそんな俺の顔を見ながら優しく微笑んできた。


「……そっか。ふふ、ま、いいけどね。でもいつか私の事を名前で呼びたくなったら……その時はいつでも気軽に呼んでくれていいからね、健人」


 坂野の顔はいつも通り気だるそうな感じだったんだけど、でも何だかとても楽しそうな笑みを浮かべながら俺にそう言ってきてくれた。


「……あぁ、わかったよ」


 そしてその笑みはやっぱり……俺の大好きな笑みだと改めてそう思った。


【第一部:完】


――――


・あとがき


ここまで読んで頂きありがとうございました。

キリの良い所まで書く事が出来ましたので、本作品はここまでで一旦終了とさせて頂きます。


他にも色々な種類のラブコメ作品を書いてますので、良かったらこれからも筆者の作るラブコメ作品を楽しんで貰えたら嬉しく思います。


また、本作品についても空いた時間が出来ましたら番外編のようなオマケ話を投稿したいなと思っております。


という事で最後に改めてここまで読んで頂き本当にありがとうございました。

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クラスメイトのダウナー系女子がいつも無自覚に俺の事を誘惑してくる話 tama @siratamak

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