二度と会えないトリに祈りを

秋犬

二度と会えないトリに祈りを

 1844年7月、アイスランド沖の岩礁をうろつく船があった。


「本当にこの辺にいるのか?」

「間違いないって、エルデイにはまだたくさんいるって評判だ」


 船乗りたちの目当てはオオウミガラスだった。火山の噴火により生息数を激減させたオオウミガラスは、絶滅する前の今のうちにと剥製を求める博物館に高く売れた。


 エルデイ岩礁に船乗りたちが辿り着くと、先客が見えた。


「やあ、その辺りにウミガラスはいるか?」


 すると同業らしき者たちは顔を上げる。


「ああ、あっちに結構生き残ってるぜ」


 そう言って彼らは姿を消した。船乗りたちはオオウミガラスがまだ多数生息していると聞いて胸を撫で下ろした。


「まだたくさんいるらしいな」

「それなら遠慮なく剥製用に持って帰ろう」


 船乗りたちはまもなく、抱卵しているオオウミガラスのつがいを発見した。即座に成体の2匹を殺し、その拍子に卵が割れた。


 しかし、それから船乗りたちはオオウミガラスを発見することはなかった。それどころか、人類は二度とオオウミガラスと出会うことがなかった。


 ***


 船乗りたちと別の時空に浮かぶ時空艇の中で、時空監査局の2人が北の海を見下ろしていた。


「ついに種まで滅ぼす任務が来るとはね」


 エルデイ岩礁でオオウミガラスが生き残っていると船乗りたちに告げたシノスが時空艇の中で呟く。


「この時代はまだ自然保護の概念がないから仕方ないとは言っても、悲しいね」


 ロードも沈んだ声で呟く。


「もう人間は殺しまくってるけど、動物を訳なく殺すのは未だに抵抗があるよ」

「それもこれも、俺たちがそういうものだと思っているからだろう? むやみに動物は殺しちゃいけません、って」

「そうかもね」


 2人は深いため息をつく。


「でも動物園のペンギン、結構好きだったんだよな」

「時空管理局は南極ペンギンだけをペンギンにするつもりらしい」

「なんで?」

「そっちのが可愛いからだとさ」


 二度と会えない鳥を想い、2人は次の時代へ向かった。

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