ある畜産業者の日常

りゅうちゃん

ある畜産業者の日常

「とーとーと、とーとーと、ほら、出て行け、出て行ってみな遊んで来い」

「もう全部出たかな」

「ああ、じゃあ掃除するか」

ここはとある牧場、2人の従業員がここを管理している。家畜は非常に多く、放牧場も広く。二人が掃除している小屋は非常に近代的で自らの手で掃除する必要は無いが、衛生状態などの確認を兼ねて行っている。家畜には最高の寝床、餌が与えられ、一頭当たりのスペースも広く、自由に遊ぶことができる。最高の環境の為、小屋から外に出すのが一番の大仕事だ。小屋を出る家畜は泣きながら出て行き、笑顔になって帰って来る。それならば、小屋のみで飼育すればよいのでは?との話もあるが、小屋の中だけでは運動量が足りず、家畜としての質、つまり味が落ちてしまう。ここの小屋は上質な家畜を扱っているが、質の悪い家畜はほかの小屋に移され、厳しい環境で育てられる。小屋は大きく6つあり、痩せさせたり、争わせたりして鍛えたりするところもあるが、ここは出荷が近いから、わりとのんびり育てている。それでも、放牧場で怪我したり、動かなくなる家畜もいるから、それを連れ戻したりもする。昔は飼育数も少なかったから、個体ごとにおもちゃを与えたり、群れの中でリーダー作って、みんなで遊べるような仕組みを作ったりしたが、最近は数が増えすぎたので、自然の成り行きに任せている。消費が増えているであるが、質は落とせないというので、大量に飼育する方針に変更した。当然、望み通りの品質に至らない個体もでるので、ほかの厳しい小屋に移すことは多々ある。虐待に近いので、なるべく送りたくないから、ここを鬼にして放牧場に追い出している。ここで出荷基準に満たされればば、出荷準備の小屋に移されて、需要に合わせ屠殺場に送っていく。結局殺すが、それまでは良い生活をさせたいと思うのは普通だが、先輩からは情が移ると大変だからあまり考えるなと言われている。

「そろそろ、第一エリアと第八エリアの家畜は次に遅れそうだな」

「ああ、だが、13エリアの大部分は下に戻さないいけないね。全然鍛えてないからぶよぶよだ。まったく、こっちに持ってくるなよな」

「あちら側もノルマがあるからな。ここより労働条件劣悪だし」

「まあ、13エリアの家畜は異例だね。ここの子たちはいい子が多いからね。らくはらくだよ」

「ああ、勝手に運動して帰って来るからな。8サイクルもすれば、勝手に上等な品質になってくれるからな」

「まあ、途中で帰ってきたりする子もいるけどね。あとなかなかかえって来ないことか」

「そうだな、そいつらは良いが、放牧場から逃げたり、消えたりする個体のほうが大変だ。もう探すことは出来ないし、野生で生きるには厳しいだろうに」

「でも、この柵を越えて逃げることなってできのかな」

「それが不思議なんだよ。周囲も管理しているだけど」

「もしかして、以前辞めたあの人が嫌がらせでやっているのかな」

「変なことを言うなよ。あの人は殺されるために育てられている家畜に同情して、家畜と共に脱走を図ったけど、大部分の家畜は取り戻せたし、あの人はクビになった上に捕まったんじゃなかったか」

「そうだね、家畜を盗んでも我々は食べる訳でも無いし、そんなことをするのはあの人ぐらいしか思いつかなかったからね」

「まあ、何頭か居なくなったくらいで大きな問題も無いし、とりあえず今日することをやってしまおう」

そう言って、二人は作業に入った。

 家畜は何のために飼われているか分からないだろうが、我々の望む方向に育てば待遇が上がり、逆ならば虐げられる。それが分かるから、一生懸命運動して鍛えるのだろう。殺されるために喜んで苦労をする。哀れな存在だ。だが、その哀れな存在を育てるための我らは何であろうか。家畜を飼っているのではなく、家畜に飼わされているのではないだろうか。

 そして、今日も一日が終わる。



 後日、これらの家畜はお客様の下に届けられ、おいしく頂かれました。

 お客様は神様です。


 了


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ある畜産業者の日常 りゅうちゃん @ryuu240z

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