【KAC20246】新選組始末騒動 (KAC2024 第6回お題・トリあえず)

凛花

【KAC20246・6回目お題トリあえず】新選組始末騒動


 土方は常日頃からの厳しい表情かおをさらに厳しくして会議の場に居並ぶ幹部達の顔を見回す。


誰もが目を合わさないように下を向いたり、咳ばらいをしてみたり、もはや存在感すら消そうとする者まで。


それぞれの最善と思われる方法で土方の目に留まらぬようにと願う。


「……さて 」そこで言葉を区切ると土方はもう一度幹部の顔一人一人見据えた。

「そろそろ決めようじゃないか……誰が奴らをるか 」


「土方君…… 」近藤がためらいがちに口を挟む

「本当に我々でるのか?」


「……近藤さん、くどいぞ。 今日まで散々話し合ったことだ 」


「……そうだったな 」近藤が観念したように目を閉じた。


土方は口を開く「とりあえず、沖田君…… 」


突然名を呼ばれて沖田が顔を上げた、 京に来た頃と比べると痩せて血の気まで失せたようなその青白い顔には困惑が浮かぶ。


「え……っと。 私? 」


「頼めるか……お前の腕なら間違いない。 仕損じることなど無いはずだ 」


「待ってください、土方さん。

こればっかりは…… とりあえず私は無理です、できません 」


「しかし…… 」 

「む……ゲホッ 無理で……すっ……ゲホッゲホッ 」沖田が大きく咳き込む


土方は、もういいと呟くと「なら、斎藤君…… 」


そうだ……苦しい時の斎藤頼み。 あいつならどんな命令でも完遂する。


そんな絶大の信頼を込めて斎藤を見る。


斎藤は無表情のまま「副長……とりあえず私も遠慮を……相手が悪すぎます 」


「……そうか、君まで。 情けないことだな。

そういうことなら原田君、君でいい。 いや、むしろ原田君こそ適任だ 」


我ながら良い考えだというように土方が満面の笑みを浮かべた。

今日の会議で初めて見せた笑顔……逆に皆の恐怖を誘う。


「ちょっと待ってくれよ! なんで俺が? 」原田が立ち上がりかけるのを隣に座る永倉が止める。


土方は元の厳しい表情に戻ると「とりあえず君の得意な槍で一突きだ。 そのあとは待機させた平隊士達にらせる、それならいいだろう 」


永倉が割り込む

「土方さん……槍は原田の命だ。それを間に合わせみたいに言うのはどうかと思うぜ。

とりあえず、あんたのそういうとこだよ…… 」


ずっと黙っていた永倉が、何を言い出すかと思えば……チッ


土方は舌打ちをする


こいつはこうやって時々近藤さんや俺のことを非難がましく見るのだ


「だったら永倉君がってくれるのか 」


「……ああ、わかった。だけどその前に藤堂には…… 」


藤堂……


その名が出て皆が再び目を伏せた


「あいつがどうとかいっさい関係ない。 あいつは伊東側あっちの人間だ 」


「土方さん!そもそも藤堂の今回のことはあんたのせいでもあるだろ! 」永倉が土方に詰め寄るのを見て、

原田も「そうだよ!せめて平助には先に教えてやれよ! 」とがなり立てた。


「言い訳はもういい! お前ら全員怯懦だ!士道不覚悟だ!腹を切れ」


「みんな、落ち着け!」

井上の大きな声に皆が振り返る


温厚で滅多に大きな声など出さない井上が「とりあえず皆落ち着こう 」そう言いながら懐から紙を引っ張り出してきた。


「源さん、それは……? 」近藤が怪訝そうな顔をする。


「近藤さん、歳さん……誰もやりたくないなら 」

井上はみんなの輪の真ん中に出ていく

「……とりあえず 」


皆が井上を見守る


「とりあえず、こういう時はくじ引きだ! 」

井上が得意そうに梯子のようなものがたくさん書かれた紙を畳に広げて微笑んだ




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 数日後、西本願寺の境内は大騒ぎとなっていた。



『隊士達の健康のため

もっと滋養のつくものを食べなければいけない』


近藤が懇意にしている将軍御典医でもある松本良順医師に豚肉を勧められた近藤は土方と伊東に相談をする。

その伊東から話を聞いた藤堂と篠原が積極的に動いて新選組に豚を数匹譲り受けることに成功したのだ。

豚を食べるということに抵抗がある者が多かったため、とりあえず境内の奥に豚小屋が作られた。

皆がにおいなどに慣れてくるまで藤堂が世話をすることになった。

もちろんそれを命じたのは土方だった。


藤堂は何も言わなかった

それでも世話をするうちに情のようなものも芽生える。


と譲ってもらった豚だが


やはり忍びない

とりあえず命令がでるまではきちんと世話をしよう……


藤堂はそんな気持ちでいたが、土方がついに決断した


いつまで飼っていても埒が明かない、とりあえず一度豚を食べてみるのだ……

問題は誰が豚を……



井上発案のくじ引きに当たった原田の一突き、

というわけにはいかずその日の境内は


逃げる豚

それを追う隊士

怒鳴りつける原田

この世ぉの地獄や、と嘆いて読経を始める僧侶たち


とにかく通りすがりの人が門の内を覗くほどの大騒動となったが、

とりあえずその夜の隊士達の夕食には無事、豚の肉が配られた。




「……なあ、歳 」近藤が自身の拳も入るほどの大きな口で豚肉をほおばっている。


「豚のことだが……平助たちあっちに始末させればよかったのに。

自分たちのものを勝手にこちらでったと思って 腹を立てているんじゃないのか。

揉め事は勘弁してくれ。伊東先生たち、怒って食べてないかもしれんぞ 」


「さあな…… 」


伊東は夕食用のお膳を部屋に運ばせてそちらで食べている。

それは近藤も土方も同じことなのでどうでもいい。


が、……いつも伊東に付き従う者たちも一緒にお膳を持ち込んでいるようだ。


もちろん藤堂平助もその一人だ


部屋にこもっているので伊東側あっちの人間が


豚を喜んで食べたのか

口に合わぬと捨てたのか

土方が勝手なことをしたと憤慨してるのか


……わからないし、知ったこっちゃない


分かるのは……


「とりあえず藤堂は……食べるものを粗末にはしないよ 」



土方は、ぱさぱさの豚をおもいっきり咀嚼しながら

「フン……たいして美味くもねえ…… 」

憎々し気にお茶で流し込んだ



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