ケレンSide〜俺の初めての弟子〜
俺は小さな窓から、ノアの背中をじっと見つめる。
ノアの姿はだんだんと遠ざかっていき、数分もたった頃には全く見えなくなっていた。
「じゃあな、ノア。」
そう俺は小さな声でつぶやく。
ノアは少し不思議で、俺の大切なものになっていった俺の弟子だった。
あいつがいたこの13年間は本当に短かくて、楽しかったな。
感慨深くなって目を擦る。こすった手には少し濡れた感触がした。
あいつはきっと強くなってここに帰ってくるだろう。
俺は。その瞬間が見てえ。
だが、もう。
そう思った瞬間、その言葉を肯定するかのように、冷たい感触が体を這い上った。
「ゴホッ」
―口元に当てた手にはべっとりと真っ黒い血がついていた―
ここまで生きられたのもノアのおかげかも知れねえ。この絶対に治らねえ呪いを直そうとしてくれたのも嬉しかったな。
「ゴホッ」
―体の血管という血管のすべてが、黒く染まった―
隠蔽の上位スキル、遮断と回復魔法でノアにバレねえように誤魔化していたが、もう限界みてえだ。
だが、今で良かったな。少し前だったらノアの旅立ちを邪魔してるところだった。
「ゴホッ」
―体が真っ黒に染まる―
Bランクの魔獣の突然変異種の呪いはやっぱりやべえ。いや、なら俺が13年間も生き延びられたのは奇跡だろうな。
あの時、あの魔獣が
「ゴホッ」
―体から力が抜け崩れ落ちる―
俺はノアにB級冒険者だと言っていたが、正確には元B級冒険者だ。あの呪いをくらっちまったから、俺は強い相手とはまともに戦えねえ。だから、冒険者をやめてここに住んでたんだ。
当初は本当にむしゃくしゃしてたが、今ではくらっても良かったなんて思ってる。
強がりかもしれねえがな。
「ゴホッ」
―眼の前がだんだん暗くなってゆく―
俺はもう終わりだ。ノアのことは最後に神様がくれたご褒美だ。潔く死のう。
そう思ったのに相反する思いが叫ぶ。
ノアが強くなって帰って来る事を見たかったな。生きてえな。 なんて。
そんな思いを打ち消すように、俺はそれを否定しようとしたが、その言葉は途中で困惑によって打ち消された。
「どうして..だ。ノア。」
目の前に人影があった。その人影はこの辺りでは珍しいきれいな黒髪を靡かせ、その端正な顔を悔しげに顔を歪めている。
死ぬ前の幻かと思ったが、直感がこれはノアだと告げていた。どうやって知ったのかはわからねえが。
「げれんざんっ!!どゔじで!ごれは呪いでじょう!!」
俺の問いには答えずノアは、俺に聞き返した。ボロボロと涙をこぼしながら。
ああ、そういえば前話したな。話さなければよかったな。それならまだごまかせたかもしれねえのに。他人事のように考える。
「言うわけ...ねえだろ。」
ノアはこの年にしちゃあ十分、いや異常なほど強い。強いが、この年にしちゃあ、だ。ノアはまだまだ成長し、いずれ俺も超えるだろう。
だが、俺に勝てねえ今のノアは
もうすぐ俺の命も尽きる。言わなきゃノアはあいつと戦えねえ。
最後の力を振り絞って、フッと不敵な笑みを浮かべる。
じゃあな、ノア。
もう一度そう思ったのを最後に、だんだんと暗くなっていく視界とともに意識がぷつりと途切れた。
✕✕✕✕✕
本文の補足です。
冒険者の呼び名→SSS、SS、S、A、B、C、 D、E、F級冒険者。
一つ一つの層のことをランクという。魔獣は基本的にランク呼び。魔獣、魔族と人を分けるため。ちなみに聖獣も冒険者と同じ呼び名をされる。
Fランク、Fランクダンジョン、Fランク魔獣、魔人。F級聖獣。
説明不足で申し訳ないです。
外れスキルの冒険者(旧タイトル 外れスキルで成り上がり) @banananeko
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