新たな旅立ち

目を開けると、家につく頃だった。

暗い森の中で明るい光を放つ木造のきれいなツリーハウスが目に映る。


家につくと、ケレンさんは慣れた様子でその扉を開け、俺の体をベッドに横たわらせた。


回復ヒール


ケレンさんがゆったりとそうつぶやくと、淡い黄色の光が漏れ出て、俺の体を包みこんだ。

鑑定は自分の体を魔力で強化するだけのため、詠唱はいらないが、魔力は声に乗って外に出てくる。

なので魔法、外に影響を与える魔力を使うときは、基本的に何か声を出さないといけない。

魔法はイメージも大事なので、大抵の魔術師は一般的にできた魔法を使うようの言葉、魔法語を使って詠唱をする。


ちなみに前に鑑定は話す必要ない云々言っていたと思うが、人を鑑定するときは礼儀として、今から鑑定をしますよ、ということを伝えるためらしい。

まあ、敵とかだとそんな事は言わず、勝手に鑑定するらしいけど。




そんな事を考えているとだんだん体の傷がふさがり、疲れが癒えてきた。『回復』は光属性の初歩的な回復魔法らしいけど、相変わらず凄い回復力だ。

魔法は人によって同じ魔法でも、威力はぜんぜん違うらしいが、流石B級冒険者といったところか。



淡い黄色の光が消えていき、『回復』の効果が切れたので、俺はケレンさんにお礼をいう。


「ありがとうございます」


「いいってことだ。それよりお前、お前が今日攻略したダンジョンでこのあたりにあるダンジョンは最後だ。これ以上強いのはねえ。」


ケレンさんは俺に向かってそう言うと、


「もうノアは十分強い。俺が教えられることはもうねえ。ノア!お前、世界を見てこい!」



とこれまで見たことがないほどの満面の笑みで、続けると、俺の頭に手をおいた。

それから唖然としている俺をおいてリビングを去っていった。



✕✕✕✕✕



一晩考えた。ここを旅立つか。


俺にとってここは第二の家だ。ケレンさんといっしょに過ごす日々は楽しく、ケレンさんがいない生活なんて想像もできなかった。




聞かれるのこそを突然で驚いたが、初めから答えは決まっていた。


俺は準備が終わると、ケレンさんの部屋へ向かった。

小さいときは睡眠がたくさん必要で、俺のほうが遅かったが、ケレンさんは相当よく寝る。

最近は俺が早く起きる時のほうが多かった。

ケレンさんの部屋の前につくとノックをしてから、部屋に入る。返事はなかったがいつものことだ。ノックしたんだしいいだろう。


扉を開けるとケレンさんがいたが、いつもと違って目を開けていた。少し調子が悪そうだった。


「ケレンさん!大丈夫ですか!?」



俺は慌てて駆け寄り、


症状治癒シンプトンヒール



とつぶやく。これは病気や状態異常などを治す、回復魔法だ。

薄紅色の光がケレンさんの体に吸い込まれていった。思ったより魔力を使うが、それだけ症状が悪かったのだろう。


「ふう。ありがとな、ノア。少し夜ふかししちまってな。」


ケレンさんはおでこに浮かんでいた脂汗を拭うと、俺の姿を見て頷く。


「ノア、行って来い。少しばかり離れちまうが、すげえ冒険者になって帰ってこい!」


俺は今日の朝準備した大きなリュックを背負っていた。

たしかにここにいたいという気持ちもある。だが、それ以上に俺はこの世界を冒険してみたかった。



「わかってます。必ずまた戻ってきます。」



俺はそうケレンさんに返事をすると、息を少し吸って、はいた。


「それと。」


力を込めていったのに、少し声が震えてしまった。

俺が今から言う事をケレンさんに信じてもらえるかなんてわからない。だが、ケレンさんにこのことを秘密にして、でていくのは嫌だった。


「俺まだケレンさんにいってないことがあるんです。」


震えそうになる体に力を込めて、ケレンさんを真っ直ぐ見る。



「ケレンさん、転生って信じますか。人が新しい生命に生まれ変わるってやつです。俺には前世、この世界じゃない世界で生きた記憶があるんです。そこには魔法や魔獣はありませんでした。代わりに科学と呼ばれる方法で文明が発展していました。」


ケレンさんはじっと俺のことを見ていた。今になって体が震えてきた。信じてもらえないかもしれない。


「わかった。」


ケレンさんはただそれだけを短くつぶやいた。それから、柔らかく微笑んだ。



俺の目から涙がこぼれ落ちた。不安で我慢していた涙があふれた、または信じてもらえて安堵した、あるいはどちらもだろう。


俺は涙を見られたくなくて、くるりと方向を返して、俺はケレンさんの部屋を出、玄関を出た。振り返ると、あの日と変わらないきれいな家があった。



「じゃあな!!」



その家の窓から、ケレンさんの大きな声が聞こえた。ニコニコと笑いながら手を振っている。

俺は少し手を上げてそれに応じると、すぐに暗い森の道に踵を返して歩いていった。これ以上ここにいると少し泣いてしまいそうだった。


✕✕✕✕✕


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