トリなだけにトリあえず。

大創 淳

第六回 お題は「トリあえず」


 ――ちょうど一か月前のこと。それは卒業式に、ある役目を担うことになった。



 それは突然のこと。告げられた。時の権力者である生徒会長から……


その名は日々野ひびのせつ。でも、本当なら別の人だったそうなの。その別の人が誰かは知っていた。よく知っている子だ。クラブ紹介の時もそうだったけど、今回もまたなの。


『在学生から卒業生へ贈る言葉』と題され、さらにトリ。

 校長先生の挨拶よりも、卒業式を〆る役割。八百文字以上の原稿を執筆することに。そんな僕の名は、星野ほしの千佳ちか。僕と言っても僕は正真正銘な女の子。今PCに向かう。


「取り敢えず書いてみたら」と、そうそう……僕に役割を振った張本人の梨花りかが、シレッと言ったの。梨花は、僕の双子の姉。どれくらい似ていると言えば、そうだねえ、とても制度の良いプラモデル。社会現象を起こす程の。或いは、鏡を見ているようとも。


「ちょっと梨花、取り敢えずとは言ってもね、そう簡単じゃないんだよ? 卒業生にとってはね、学園生活の締め括りになる一生に一度の儀式なんだから、中途半端になんか……それにだよ、在学生なのに妊婦なんだよ、僕……」と、お鼻の奥がツンとなった。


 すると梨花は、そっと僕の肩に手を置いて、


「だからだよ。人生の重みを僕よりも、きっと一歩進んでる千佳だから、トリを飾れると僕は信じてる。それにまた、これを機に挑戦して欲しいから。またエッセイの執筆に」


 そうなの、とある小説サイトの『書くと読む』で僕は……


 エッセイを執筆していたのだけど、今年に入ってペースダウンどころか、書くことに億劫になる場面も数多く。でも、書くのは大好き。それは何も変わっていないから。


「じゃあ、やってみるね、トリなだけにトリあえず」


「フムフム、そうそう。……戻ってきてるね、千佳」


 多分、リミッター解除の域。在学生で妊婦でも後悔はなかった。梨花の言葉で、僕は胸を張って挑めそうな気がした。青い鳥は見えずとも、チルチルとミチルのように、心の中に青い鳥は宿っているから。……それはトリを飾るには、莫大な勇気となるのだから。


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トリなだけにトリあえず。 大創 淳 @jun-0824

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