あの日助けたキミは……

セントホワイト

あの日助けたキミは……

「危なっ!?」


 玄関を開けて何気なく下を見ると、足下に小さな鳥が居たのを見つけてしまう。

 その大きさは自分の足に隠れてしまうほどで、見つけたのは偶然でしかなかった。

 しかし小さいが故にドアと地面の隙間に居たことで開けた時に弾き飛ばされなかったのだろう。


「えぇ……? どうすっかなぁ。時間は……まあ、まだ大丈夫か」


 今日は就職初日のため自分でも自慢したくなるほど早く起きて家を出た所だった。

 天候も好調。雲が疎らに千切れ飛んでいて朝の日差しに目が眩みそうになる。

 初日から遅刻する訳にはいかず、とりあえず早めに家を出ようとしたら倒れている小鳥を発見したのだ。

 就職祝いと思ってホームセンターで買った腕時計を確認し、時間にはまだ余裕はあるが、だからといって社会人は悠長に時間は使っていられない。


「生きてんのか? そもそも小鳥ってことは何処からか落ちたとか……あっ」


 周囲を確認してみると自分の住む部屋の隣、玄関の上に鳥の巣が出来ているのを見つけた。

 ほかに小鳥も居ないため、巣立ちをする最後の一匹だったに違いない。

 しゃがんで触れてみれば鳥はじたばたと動くが、羽ばたくことが出来ないでいた。恐らく何処か怪我でもしたのかもしれない。


「お前も……新しい生活の一歩目だったのか」


 小鳥をこのまま放置すれば都会のカラスの餌食になるのは明白だが、親鳥や他の子供が近くにいるようには見えない。

 付いて来れない者は例え子供であっても置いていかれる。これが自然界の厳しさなのだ。


「俺も会社で失敗したら……ああっ! 嫌だ嫌だ! 考えない考えたくないっ! そういうのは不安になるだけだ! 今はこの子をどうするかだけ考えればいい!」


 手の中で藻掻く小鳥。恐らくまだ生きていけるのであれば、元気になるまで多少の面倒ぐらい見てもいいだろうと思い家の中へと引き返す。

 安アパートのためボロボロの新居に、買ったばかりの小さな机に置いたお洒落かと思って買った小箱にティッシュを敷き詰めて小鳥を中に寝かせる。


「とりあえずはまぁ……大丈夫か? あとは帰ってから色々と用意すればいいよな?」


 小鳥から出血は見られないため、安静にしていれば何とか持ち直すかもしれない。そもそも何をどうすればいいか検索しなければ分からないし、その時間は流石にないのを時計を見ずとも分かる。


「ごめんな? 帰ってきてから見てやるからな」


 寝かせた小鳥を部屋に残し、俺は就職初日に何とか間に合い、上司に小言を受けながら一日を過ごした。

 五分前行動が出来ていない。もっと余裕をもって行動しろ。報連相や身嗜みの重要性などを言われながら一日を終えた。

 もはや晩飯を作る気持ちの余裕などなく、当たり前になりつつあるコンビニ弁当をぶら下げて帰宅すると―――


「よぉ! けぇって来たな! オッス! オラの御主人様!」


 ―――どこかで聞いたことのある強そうな小鳥が出迎えてくれたのだった。


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