これこそがハンティングゲームの醍醐味だ

甘宮 橙

第1話

「はあ、今日も伝説にはか?」


 モニターのゲーム画面には漆黒の馬を駆って荒野を進む、青い甲冑の騎士が映し出されている。

 モンスター討伐型高難易度系アクションRPG、テラモンスターオンライン。そこで最近実装された朱雀すざくなるボスモンスターを探しているのだが、こいつが神出鬼没でエンカウント率も激レアなため、まだ上位版をソロで倒したプレイヤーはいない。噂によると、その強さはまさに「神」レベルだとか。


「諦めて通常クエストでも受けるか」


 自分に言い聞かせるために言葉を発したまさにその時、青き騎士の頭上を赤く光る何かが通り過ぎる。その予感に散漫とした頭が一瞬で覚醒する。優雅に空を飛ぶモンスターを見極めるため、馬に手綱を入れてそれを追いかける。

 馬を走らせながら視点を上に傾けると、画面がしっかりとそれを捉えた。


「来た! 来た! 来た! 朱雀だ!」


 朱雀を確認した瞬間、アドレナリンが分泌されて集中力が増す。

 逃がしてなるものか。ヘイトをこちらに向けさせるため、馬上から弓矢を射る。


「クオオォォォォォン」


 矢が朱雀に命中すると、ヤツは甲高い声を発して戦闘態勢に入る。俺は騎士を馬から飛び降りさせると、得意武器の長剣に持ち替えて迎え撃つ。

 朱雀は上空から一直線に、弾丸のような速さで騎士をめがけて突進してくる。初めての相手。初めての攻撃。だからこそ、それをかわせた時の興奮は格別だ。鬼のような集中力でその攻撃をかわした俺は即座に朱雀に斬りつける。ダメージのエフェクトが光る。効いている。


 このゲームは敵のステータス値のデータなどが表示されておらず、その行動や動作表示によってダメージを測るのだ。

 初のダメージ判定に心を踊らせて、少しでも気を抜けば、すぐに朱雀の反撃が俺を襲い、一撃でダメージをごっそりと持っていかれる。隙を見てポーションを飲んでダメージの回復に努めたいのだが、このゲームはその隙がほとんどないのだ。もっともそれがソロプレーの面白さでもあるのだが。

 

 一進一退の攻撃。だがここで俺の必殺剣が炸裂! 朱雀の尾羽根が切り落とされる。


「よっしゃ! 部位破壊成功!」


 興奮して心の中でガッツポーズを取るが、もちろん手はコントローラーから離せない。ここが勝負時だと判断した俺は回復を捨てて攻撃を畳み掛ける。

 連撃! 連撃! 連撃! そして……。


「やった! 朱雀を倒した!」


 だが、その油断が間違いだった。


 朱雀の体が赤く発行したかと思うと、その身を燃やす炎のトリへと変貌した。


「嘘だろ? 第ニ形態? 下位版朱雀を倒したって報告や、パーティーで倒したって報告のコミュニケーションチャットにはそんなのなかったぞ!」


 圧倒的絶望感。炎の朱雀は空中で小さく一回転をすると、その口を開き、紅蓮の炎を俺に浴びせる。体力ギリギリで攻撃を仕掛けていた俺は、あっけなくロスト。その戦闘を終えた。


 戦闘終了画面にて俺の獲得BOXには、朱雀の第一形態を倒したことによるものであろう称号「朱雀のシルバークラウン」そして部位破壊アイテムである「フェニックスの羽根」が送られていた。



 俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、画面に写った部位破壊アイテム「フェニックスの羽根」を眺めながらプルタブを上げる。


「とりあえず一杯」


 戦闘後の心地いい疲労感と超えてみたい高い壁への欲求。これこそがハンティングゲームの醍醐味だ。

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