自信と覚悟 エピソード5 自信
鈴木 優
第5話
自信と覚悟
鈴木 優
エピソード5 自信
所詮、あーちゃんの周りをぐるぐると回っていただけなのか?
それとも馴れ合いになっていたのか?
あれから季節と同時に気持ちも変わって行くのか?
先輩や周りの同僚達も、その事には触れようとしなかった きっと気を遣ってくれていたのだろう それが、有り難かった 少し寂しい気もしたが...
日々の暮らしを淡々とこなし、自分自身も変わろうとしていたのかもしれない
思えば、最初から強引に しかも勝手に物事を考え進めていたような気さえしていた
『あの子と会わなければ、あんな事さえ無ければ』とさえ思える
きっと、幸せにしようと思う『自信と』が足りなかったんではなかったのか?若気の至り?
真剣だった この子を、この子との将来を幸せな物にしたいと思っていた
『一方通行』の思いだったのか?最近ではそんな事さえにも思えてきていた
ある日、いつものように仕事を終え帰宅すると、俺宛ての手紙が二階に上がる階段の途中に置いてあった
手紙なんか久しく手にした事がなったので、何だこれ?
差出人は『酒井明美』あーちゃんからの物だった
午後に届いていたらしく、恐らくお袋が夕刊でも取り行った際にあったのだと思う それを、敢えて居間にではなく必ず通る階段の、それも隅にそっと立て掛けるように置いてくれていた
手紙には、怪我もすっかり良くなり日々過ごしている事、あれから中々自由な時間がもらえない事、何より俺とは合うなと言われていた事、そして卒業したら地方で親戚がやっているスーパーを手伝うように言われている事が書いてあった
それからどれ程の時間が経ったのか?
ステレオから聞こえてきていた音楽が三曲位迄は耳に入って来てるのはは覚えているが、気がつくと それも終わり、針が上がって行くのが見えた
車のキーを握り、いつもは車庫の前の少し下りになっている所を腹を剃らないようにゆっくり走り出すのだが、今は違う けたたましい音と共に、一気に あーちゃんの住む町迄加速していた
会いたい、顔を見て話しがしたいと言う衝動だけだった
写真館の前に車を停めてドアを開けると、あーちゃんの父親が店先に座っていた
『あーちゃん、あーちゃんに合わせて下さい』本来ならば、きちんと挨拶をしてからの話になるのだが、正に無我夢中だった 唯ならぬ俺の勢いと、形相 そんな様子を見たあーちゃんの父親は、少し言葉を詰まらせていた
『ちょ、ちょっと待ってろ』
奥の方から母親や兄貴達があーちゃんに向けての罵声や色々と諭しているのが聞こえてきいた
あーちゃんが出てきた その顔は少し涙ぐんでいた そう!子供の頃 公園で雨に打たれていたあの顔
そのまま黙って抱きしめた
そして手をとりいつもの助手席に乗せて走り出していた バックミラーには家族の、その姿が見えていた
あーちゃんは運転している俺を唯、黙って見つめていたが、俺は何故かその顔を直視出来なかった
低い排気音と、いつも二人で聞いていた音楽が、今晩は特に腹に響いている
空港のライトが見える、あの自販機がある駐車場でコーヒーを飲みながら暫く黙って車に寄りかかっていると、もう直ぐ着陸してくるであろう飛行機の音が遠くから聞こえてきている
あーちゃんがいきなり、頬を膨らませながら
『何であんな風にしたの?』
手紙を読んで、どうしょうもなく顔が見たくなり会いたくなった事を話そうとしたが
『もう何処にも行くな ずっと側にいてくれ』
それだった 何故かそれが最初に出た言葉だった
あーちゃんは前と同様 頷くだけだったが、少し違っていたのは飛行機の着陸音に消されかけた『うん』と言う言葉と、あーちゃんの唇が目の前に見え、同時に体温と、あーちゃんの『覚悟』を感じていた
二人の息と車の排気が白く舞う 未だ春には少し遠い雪解けの始まった頃の事だった
自信と覚悟 エピソード5 自信 鈴木 優 @Katsumi1209
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