KAC20246 君の理想は遙か高みに

久遠 れんり

トリあえず、言っただけなのに……

 初瀬 凪はつせ なぎ入船 紬葵いりふね つむぎは幼馴染み。


 大学生になり半同棲中。

 四月になれば、大学も三年になり、就職やその先。

 結婚も考えるようになってくる。


 ある日、凪は紬葵に結婚像を聞いてみる事にする。


 今までの付き合いの中で、紬葵の性格は分かっているつもりでいた。

 あまり小さな事には拘らず、優しくて、料理とかも出来る。

 これは小学校の家庭実習時。

 少し食べさせて貰い、紬葵を褒めた。

 その時から、ずっと頑張っている。


 勉強はそこそこだが、それは色々習ったりして、時間が無いから仕方が無いだろう。

 習字や、ピアノ。

 お花まで。


 そのおかげか、クラスでの人気はすごいもので、焦った凪から告白し、幼馴染みから恋人にクラスチェンジをした。


 そして大学は、なるべく近いところへ入ったが、二年の時に家を出て学校に近いところでアパートを借りた。

 その時に初めて、敷金礼金や保証人などを知る。


 住民票の異動届や、実印の印鑑登録。

 所得証明書。

 少しのことで、知らない物があるのだと知る。


 そして銀行口座などの変更届。

 そしてまた別の書類が必要になる。


 僕は知らないことが多い。


 そうして、ふと思い。紬葵に聞いてみることにした。

 紬葵は、行為の後だったため、ぼんやりしたまどろみの中で答える。


「結婚の理想ねえ。まずお金は必要よね。年収は一千万くらい? あれば良いわね。そして三十前には子供も欲しいし、お家も欲しい。小さくていいから庭付きで…… でも……」


 軽い気持ちで聞いたこと。だが、彼女の理想ははるか高みだった。


 その日から僕のせいだが、何かが崩れた。

 紬葵には、理解ができない。

 なぜか、凪の機嫌が悪い。

 ふと、聞かれたことを思い出す。


 年収は共稼ぎでの話しだし、さいごに凪と一緒なら、それで良いと言ったはず。


 やがて、根性無しの凪は、やってはいけないことをしてしまう。

 優しくしてくれた、女の子を頼ってしまう。



 トリあえず言った言葉で……

 その事を知ったかの女はそう思ったが、実はずっと凪は紬葵に対してコンプレックスを積み上げていた。

 紬葵は凪のために頑張り、凪は紬葵のために頑張らず、嫉妬し不安を抱えていた。

 そう高校のあの時。

 誰かに取られると思い、告白し。手に入れることで安心をした。

 大学でも、不安から彼女を抱いた。


 そして、後日。あの日最後の言葉を聞けなかったと言うが、逃げたかったのは凪。

 努力をせずに…… 劣等感にさいなまれて他の子を頼った。


 不安だったことを正当化して、紬葵に謝りもせず。

 トリあえず、彼は逃げた…… それだけの事。

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