第71話 エンディング
俺と紗栄子は路面電車に乗り、段山停留所で降りて、紗栄子の家に向かった。
「なんとか10時前だな」
「うん。これなら大丈夫かな」
「じゃあ、また……連絡する」
「うん」
「夏休み、どこか行こう」
「うん」
「勉強会も!」
「うん」
「買い物にも行きたい」
「うん」
「博物館もまた行こう」
「うん」
「…………じゃあ行くから」
「うん……蒼、またね」
「紗栄子、またな」
俺は停留所に歩いて戻ろうとした。
「蒼!」
俺は紗栄子の声に振り返る。
「大好き!」
紗栄子が言った。
「俺もだ!」
俺もそう返し、帰路についた。
◇◇◇
そして、俺は路面電車に乗り、家に戻った。
「ただいま……」
「お帰り! お兄、どうだった?」
茜が俺を待ち構えていた。
「うーん……」
「じらさないで。はやく教えてよ」
「ふふふふふふ」
じらそうと思ったのに笑みがこぼれてしまう。
「え、それじゃあ……」
「まあな。成功だ」
「うわー!! 今夜はお祝いだ!!」
「うるせーよ。ま、いろいろあったけどなんとかなったよ」
「私のおかげだね。夜の動物園、良かったでしょ」
「まあな。ありがとうよ」
「お兄が私にお礼言うなんて……」
「なんでだよ。いつも言ってるだろ」
「聞いたことないよ。ふふ、お兄、幸せそう」
「そ、そうか」
気がついていなかったが、今の俺は幸せそうに見えるのか。確かにそうだが。
「完全に生き返って人間の顔に戻ったね」
「……ようやくゾンビ卒業か」
「あー、でも朋美さんには悲報か。連絡するの気が重いよ」
「なぐさめといてくれ」
そう言って俺は部屋に戻った。
部屋に戻った俺は扉を閉めると声を全く出さず、ガッツポーズを何度も何度も何度も決めた。
それだけ嬉しかったのだ。喜びを発散したかった。
が、よく見ると扉が開いていた。
「お兄、何してるの?」
「こ、こら、勝手に開けるな」
「ふふ、あー面白かった」
まったく、困った妹だ。
◇◇◇
「ただいまー」
私、前田紗栄子は家に戻った。
「お帰り! どうだったの?」
お母さんが聞く。
「うん。中里君と付き合うことになったから」
あえて冷静に言う。
「あら、そう。良かったわね! ついに紗栄子にも彼氏が――」
「か、彼氏――」
「違うの?」
「そ、そうだけど……」
そっか。中里君、じゃなかった、蒼が私の彼氏になったんだ。
◇◇◇
お風呂に入って一息ついた。そろそろ報告の時間だ。有紀には電話する約束をしていた。
「あ、紗栄子! どうだったの?」
「うん。答え伝えたよ」
「で、どっちなの? 早く教えてよ!」
「今日、一緒に動物園に行って、やっぱり好きだなって思った」
「ってことは……」
「うん。付き合うことになりました」
「おお! 紗栄子、頑張った。頑張ったねぇ……」
なぜか有紀は涙声だった。
「うん、有紀、ありがとう。でも、もう、ほんと大変だったよ」
「え、そうなの?」
「うん。いろいろあった。花火見ながら返事しようとしたんだけどね」
「うんうん」
「蒼が逃げ出しちゃって」
「え、逃げた? ていうか、蒼? もう名前で呼んでるの?」
「あ、うん。いろいろあってね」
「そうなんだ。でも、最後は上手く行ったんでしょ?」
「まあね。もう一度告白されて付き合うことになったんだ」
「そっかあ。紗栄子、よくやったね! すごいよ!」
「うん! 大丈夫だよ。だって私、小説読んで恋愛を勉強してるんだから!」
(完)
―――――――――――――
たくさんの方にお読みいただき大変ありがとうございました。
まだ、エピソードを書く余地はあるのですが、いったん完結とします。
コメディ要素強めで書いていてとても楽しい作品でした。
多くのコメント、スター、応援、大変感謝しております。
本作と同じコレクション「フラれてから始まる物語」として新作ラブコメを公開開始しました。
告白作戦会議 ~美少女の幼馴染みに毎月1日に告白しています~
ギャルにフラれて陰キャになった俺の前に純真な天使が現れた uruu @leapday
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