第70話 天使の回答

 俺の反応が遅れたことで前田さんは人混みに紛れ、どこに行ったのか分からなくなってしまった。


「前田さん、いったい、どこに……」


 しばらく、探してみたが、見つからない。もっと、遠くに行ってしまったのだろうか。

 だが、少し離れた場所を探しても見つからない。俺は仕方なく呼びかけてみた。


「おーい、前田さん!」


 だが、やはり反応は無い。

 電話は人混みのせいか、なかなか繋がらなかった。


「いったい、どこに行ったんだ」


 花火の上がる中、俺は探し続ける。そのうち、花火は終わってしまった。


 まずい、このままでは再会できないまま今日が終わってしまう。

 くそっ、俺のバカ。すっかり勘違いしてしまった。あのとき、前田さんが言いたかった答えはおそらく……。


 結局、前田さんは見つからないままだ。帰る人が増えている。閉門の時間が迫っているようだ。おそらく、前田さんも帰ったのだろう。


「はぁ」


 大失敗だ。人生最大の失敗だ。俺は落ちこんだまま、そのままにしていたレジャーシートを取りに行った。


「あ、あれ?」


 レジャーシートに誰かが座っている。

 まさか! 俺はそれを見て走り出した。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 やはり、そこに居たのは前田さんだった。


「前田さん、ごめん。俺、勘違いして……」


「もう、遅い!」


「え!?」


 しまった。謝ってももう遅いということか、せっかくのチャンスを俺は……


「遅いから花火終わっちゃったよ。ずっと待ってたのに」


 あれ? 花火にはもう遅い、ということか。


「はぁ。せっかくいいムードだったのに」


「い、いやあ、あの、俺、勘違いしちゃって」


「もう、中里君のせいだからね」


「ご、ごめん」


「罰として今日から名前で呼んでもらうから。わかったね、蒼」


「え!? 前田さん、それって――」


「な・ま・え!」


「さ、紗栄子」


「よし。蒼、急ごう。もう出ないと」


「そ、そうだな。紗栄子」


 俺たちは慌ててレジャーシートを畳み、出口へ急いだ。


 なんとか時間ぎりぎりで動物園を出ることができた俺たちは、路面電車の停留所へと急いだ。


「早めに帰ってくるってお母さんと約束しちゃったから急がないと」


 路面電車の停留所は車道に挟まれた中にある。横断歩道を渡り、ようやく辿り着いた。時刻表を見ると上熊本行きのB系統の路面電車が来るまでしばらく時間がありそうだ。


 停留所には他にも人が居たが、熊本駅行きのA系統の電車にみんな乗り込んでしまい、俺たち2人だけが残された。周りは車が走っていて、そのヘッドライトの明滅が俺たちを照らしている。


「あのー、前田さん」


「な・ま・え」


「あ、紗栄子。そのー、告白の答えは……」


「え? 今更それいる?」


 紗栄子はまだ怒っているようだ。


「うん。できれば、答えをほしい。はっきりとした答えを」


「はぁ。私、もう勇気振り絞ったんだけど」


「そうだよな……」


「だから、蒼から告白してほしい」


「そ、そうか。分かった」


 俺は紗栄子を見た。紗栄子も俺を見る。

 行き交う車のヘッドライトがまぶしい。俺は言った。


「……紗栄子、好きだ。……俺と付き合ってくれ」


「……うん、蒼。私も好き。……お付き合いしてください」


 俺と紗栄子は抱き合った。


「紗栄子、今日はごめん」


「ううん、私も怒ってごめんね」


「……好きだ……大好きだ」


「……うん、私も!」


 すると、急に周りが明るく照らされた。路面電車がやってきたのだ。


 俺たちは体を離した。


「じゃあ、紗栄子、帰るか」


「うん!」




―――――

※次回で最終話となります(追加で何話かは書くかもしれませんが)。

 新作ラブコメを明日午前に公開予定です。

 

 


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