第69話 天使と花火

 結局、動物を見て回っているうちにあっという間に花火の時間が近づいてきた。

 こういうときの前田さんはほんとに元気だ。


「前田さん、そろそろ花火の時間だよ」


「え、もう?」


「うん、行こう」


 俺たちは食べ物を買い、芝生のある場所に移動した。もう観客は多い。俺たちは空いている場所を見つけ、そこに持ってきたレジャーシートを敷いた。


「座ろうか」


「うん」


 俺たち2人が座り、食べ物を食べていると花火が始まった。


「うわー、綺麗……」


 前田さんが見上げる。俺は花火を見ると同時に前田さんの綺麗な横顔にも見とれていた。


 今日、このあと、返事をもらうことになっている。ここまでの前田さんの様子はいつもと変わらない。イエスなのか、ノーなのか、全く分からなかった。


 だが、事前の感じから行くと、やっぱり厳しそうか。ここは、もう少し考えてもらうように頼んだ方がいいんじゃないだろうか。そう考えたときだった。


「中里君……」


「え?」


「私のこと、好き?」


「ああ、好きだ。大好きだ」


「そうなんだ。私も中里君のこと、好きみたい」


 前田さんは花火の方を見たまま言った。


「そ、そうか。じゃあ――」


「でもね……」


 あ、これはやっぱり……


「自分の気持ちに自信が無くて……」


 はぁ。ダメか。


「だから、今日、こうしてデートしてもらって確かめてたんだ」


「前田さん……」


「中里君、返事するね……。答えは――」


「ちょ、ちょっと待って!」


「え!?」


 前田さんは驚いて俺を見た。


「ま、まだ返事しなくていいんじゃないかな。じっくり、そう、じっくり考えてでいいから」


「あ、でもね――」


「いや、じっくり考えたらまた違う可能性もあるんじゃないかなって……」


「ち、違う可能性って……。私と付き合いたくないってこと?」


「は!? え!?」


 前田さんは怒って立ち上がった。


「もう、いい!! 中里君、嫌い!!」


 前田さんは立ち上がって行ってしまった。

 あ、あれ? もしかして違った? でも、違うって事は、もしかして、もしかして、もしかして……


「ま、前田さん!」


 俺は慌てて立ち上がり、前田さんを追いかけた。


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