冷えた早朝に目覚める

かさごさか

特に予定の無い日

 郊外に建つ立派な日本家屋。その家主である稲木也来いなきやらいは未だに布団の中であった。


 アラームが鳴っているような気がして、音を止めようと身じろぐ。

 接着剤でも流し込まれたかのように目は開かず、仰向けのまま枕元に置いたはずのスマートフォンを手探りで探し当てる。布団の中で適度に暖まった手は朝の空気に冷えた無機物に触れた部分から、急速に冷えていった。


 顔の上までスマホを持ち上げ、そこではじめて稲木は目を開けた。画面を見ると、アラームが鳴るのは随分先の時刻であった。


 どうやらアラームが鳴ったような気がしたのは本当に気の所為であり、夢の中で鳴り響いていたものを現実と混同してしまったらしい。


 とりあえず寝直そうか、と目を閉じるが稲木は数秒後に再び目を開いた。少しだけ浴びたブルーライトのせいで脳は半覚醒状態となったようで、いまいち寝付けなくなってしまった。

 だが起き上がれるほどの力が入らないため、稲木はスマホのロックを外した。


 とりあえずメールの確認でもしておこうか。

 海外で隠居生活を送る祖父から譲り受けた屋敷を含む遺産の管理や同じく彼が趣味で営んでいた古本屋をブックカフェに改装し運営するなど、也来が毎日すべき事はそれなりに積まれている。


 これといって緊急性のあるものは来ていなかった。メールアプリを閉じると、いつの間にか鳥のさえずりが聞こえてくる時間帯になっていた。セットしていたアラームが鳴る時間も近い。


 目が覚めた直後より幾分、思考がすっきりしてきたので、とりあえず布団から出た方が良いだろう。

 しかし事がそう上手く行くはずも無く。


 スマホを触り続けて冷えた手とは反対に、布団の中で暖まり続けた足が稲木を再び眠りへと誘い始めた。このまま誘いに従えば、次に目が覚めるのは昼過ぎになってしまうだろう。


 とりあえず起きて、


 とりあえず、とりあえず。


 ……。


 結局、稲木が布団から出たのは午後2時。近くを通った救急車のサイレン音で目が覚めた。

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冷えた早朝に目覚める かさごさか @kasago210

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