取り敢えず

@curisutofa

取り敢えず

「ピラッ」


えずはこんなものか?』


作成した名簿に目を通して、内容に不備が無いか確認をすると。執務室内の壁に貼られている地図に視線を向けて。


『混乱状態に陥りつつある、子爵ヴァイカウント閣下であらせられる岳父ちちうえが御治めになられていられる、南側に隣接する御領地から逃れて来た平民身分の領民は、当面の間は庇護ひごする方針で問題は無いな』


上級の騎士シュヴァリエの立場にて領地を治めている私は、領内での領主裁判権も有しているので。封建制度を政治体制に採用している帝国において、御領主の許しを得ずに勝手に自らが暮らす土地を離れ私の領地に不法侵入をして、治安を担う家臣の衛兵隊に身柄を拘束をされた、平民身分と奴隷身分である犯罪者の処遇を決定する責任がある。


『少数ではあるが、男爵バローン閣下が御治めになられていられる御領地から逃亡して来た農奴と、女男爵バローニン閣下が御治めになられていられる御領地から逃亡して来た鉱奴に関しては。今後を考えれば送還せざるを得ないな…』


執務室内でひとごとを話ながら考えをまとめてはいるが、女男爵バローニン閣下が御治めになられていられる飛地の分領から逃れて来た鉱奴に関しては、送還すれば陽の光の当たらないミスリルズィルバーを採掘する鉱山の坑道内にて、死ぬまで苛酷かこくな奴隷労働に従事する事になる絶望的な未来を考えると同情してしまい、庇護下ひごかに置きたくなるが…。


『帝国の君主であらせられる皇帝陛下から爵位を叙爵じょしゃくされて、貴族諸侯であらせられる身分にて御領地を御治めになられていられる女男爵バローニン閣下の、御機嫌を損ねる訳にはいかない』


平民身分や奴隷身分からすれば、上級の騎士シュヴァリエの立場で領地と領民を治めていて、領主裁判権も有する私は非常に恵まれているように感じると思うが。


『封建制度を政治体制に採用している帝国においては、皇帝陛下から爵位を叙爵じょしゃくされていない上級の騎士シュヴァリエの立場で領地と領民を治めるのは、慣習により認められているだけの権利に過ぎないので。貴族諸侯であらせられる男爵バローン閣下や女男爵バローニン閣下とは、雲泥うんでいの差がある』


私はそう独白どくはくをすると、再度執務室の壁に貼ってある地図に視線を向けて。


『西隣の領地を治める若き帝国騎士ライヒス・リッター殿は、あまり乗り気では無いようだが。混乱状態に陥りつつある南側に隣接する岳父ちちうえの御領地に向けて共に南進をして領地を切り取れば、私も帝国の君主であらせられる皇帝陛下から爵位を叙爵じょしゃくして頂き、貴族諸侯として領地と領民を治める身分となれるやもしれぬ』


今は亡き父上から、上級の騎士シュヴァリエとして領地と領民を治める立場を受け継いでから、貴族諸侯として安定した身分を得られる機会を切望せつぼうしてやまなかったので。愛する妻の実家に若き帝国騎士ライヒス・リッター殿と共に南進するのは、一切の躊躇ためらいは無い。


『愛する妻との間に儲けた嫡男には、父親である私が上級の騎士シュヴァリエとして味わった苦労はさせたくはない。男爵バローンの爵位にて領地と領民を統治する身分を受け継ぐ事が出来るようにするのが、私に出来るえずの行動だ』

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