トリ会えずな思い出話

きみどり

トリ会えず

 その「首を絞められた断末魔」みたいな音が、キジの声だと知ったのはいつのことだったか。

 スリップ音のような。どこかの工場こうばから聞こえてくる音のような。

 子ども時代はそんなイメージで、その声を聞いていた気がする。


 綺麗な鳥だと思った。体は緑色で、首は紺色、顔は赤。光沢をおびていて、ホロ加工されたレアカードみたいに特別な存在に思えた。


 野生児であった私は、キジにエンカウントすると当然、捕獲に走った。バッタやカエルを乱獲するのと同じ衝動である。

 しかし相手はキジ。時速三十キロで逃げていく鳥を走って追いかけたところで、捕らえられるはずもない。


 十分に距離をとったキジはこちらを振り返り、それから、ヒョコヒョコとトボけた歩き方で去っていくのだった。


 キジのオスは綺麗だが、メスは茶色で地味だ。子ども心に「なんで地味なんだよ。メスも派手になれよ」と思った。



【キジ会えず】

 さて、そんなふうにキジの縄張りで暮らしていたある日、トンッ! トンッ! というよくわからない音が外から聞こえてきた。


 母親の悲鳴があがる。

「キジが車をつついてる!」


 黒い車体に映った自分の姿を、別の個体と勘違いしたのだろうか。キジはひたすら車をガンつけ、嘴をくり出していた。

 やがて、「コイツおかしいな」とでも思ったのか、キジはに会えないまま、その場を去っていった。


 後で車を確認しに行くと、小さな凹みが何ヵ所もできていた。キジの嘴は、母親の心にも凹みを残した。

 でも私は「車に映った自分を自分とわからず攻撃しちゃうなんて、キジっておかしいな!」と面白がっていた。


 後日、家の前をキジの親子が通過した。茶色くて地味なメスキジの後ろを、同じく茶色の子キジがぞろぞろとついていった。

 母親は「すごく良いものを見た!」と喜んでいた。



【スズメ会えず】

 ある日、片目の潰れたスズメのヒナに出会った。結局そのスズメは死んでしまったので、母親と一緒に地面に埋めた。


 しかしそれから少しして、また片目の潰れたスズメのヒナに出会った。

 なんだか土もついていたので、幼い私は確信した。このスズメはこの前埋めたスズメだ。あのスズメが土の中から出てきたんだ、と。

 そう大喜びする私を、母親は否定しなかった。


 大人になってから、ふとそのことを思い出して、「そういえば、埋めたスズメが生き返って出てきたことがあったよね」と母親に言った。


「えっ、あれは違うスズメだよ」


 母親の返事に私はショックを受けた。


 ちょっと考えれば、当たり前のことだ。

 子どもの頃の気持ちが強く残っていたので、私はそれの真偽を考え直す機会もなく、思い込んだまま大人になっていたのだ。


 そして、母親のことが少し恐ろしくなった。そうやって吐かれたヤサシイ嘘が、他にもたくさんあるのかもしれない……


 しかし、私はどうやら記憶違いをしていたらしい。


「あの時、あなたが『このスズメはあのスズメの生まれ変わりだ』って言って、ああ、そういう考え方もあるんだ! って思ったよ」


 そんなことを言った覚えはまったくないけど、子ども時代の私なら言いそうな言葉だな、と思った。




【トリに会う】

 これは思い出話ではないのですが。

 これからの時期(三月~)、いろんな鳥が巣作り、産卵、子育てをする繁殖期に入ると思います。

 電柱や家に巣を作られて困ったり、ヒナが地面に落ちていて心配になったり、色々気になることにも遭遇するかもしれません。

 その際は、ヒトの都合や感情で動くのではなく、しかるべき所に連絡をしたり、見守ったり。その都度、適切な行動を調べつつ動くのが良いのではないかなと思います。鳥獣保護法というものもあります。


 もしこの思い出話を読んでくださった方がいたのなら、最後くらい多少有益な情報を添えておこうか、というわけで、このような〆とさせていただきます。

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