とりあえず鳥頭【KAC2024 6回目】
ほのなえ
鳥の頭、狐の顔、豚のしっぽ
「とりあえず、なんでこんなことになったんだよ」
俺は大学で同じゼミの
「ぶっはははは! 『トリあえず』だなんて、まさか鳥とかけたのかい? 上手いねぇ~っ。座布団一枚!」
「いらねーよ」
鳥井は自分が座っていた座布団を投げて寄越してきたが、俺は即座にそれをバレーのスパイクのように、鳥井の顔面目がけて打ち返す。
「あでっ!」
「ったく……いい加減、ふざけてないで説明しろ説明!」
鳥井は座布団が当たった自分の鼻――ではなく、
「でもさ、僕自身も説明できないんだよ! 確か、課題をすっかり忘れていたことを正直に教授に話したら、教授に『この鳥頭め』って言われて……そしたら、気づいたらこんな姿に。さて、君はどうしてだと思う?」
「質問し返すな! 俺が聞きたいんだよ!」
そう、俺の前にいる、人間だったはずの鳥井は今、頭だけ鳥の姿になっていたのだ。
なにやら助けてくれと電話越しに言ってきたから慌ててやって来たら、まさか、鳥の頭をした鳥井に出くわすなんて……。
「ちっちっ。まだまだだね」
「は?」
俺の圧をかけた声にも怯まず、鳥井は首を少し傾げにっこりと笑う。
「君は気づいていないのかい? 最近世間を騒がせている出来事に」
俺はそれを聞いて唸ってしまう。確かに、そんなのあったな。正直、ふざけた冗談だと思っていたが――実際に目にし、しかもそれが、ゼミ仲間の身に起ころうとは。
「そう、人間の体の一部動物化。興味深い現象だよね」
「……そんなもん、本当にあってたまるかよ」
「でも現実を見たまえ。君は今まさに、それに直面しているだろう?」
直面してるのはお前の方だけどな。ったく、なんだってこいつ、こんな状況でもどこか他人事なんだ?
「だが、君が知らないだけで、人間の一部動物化……実はもっと身近にあるのだよ。僕の知るところでは、うちの大学の、とある権威ある教授に常にくっ付いてる金魚のフンのようなとある助教授は、ある日、細い目ととんがった鼻をした、狐の顔になっていたね……もともと狐のような細い目をしていたからあんまり違和感はなかったけど、まさに、虎の威を借る狐ってやつなのかな。ま、金魚のフンになるよりはマシだったけど。あと、僕の知り合いの彼女に、豚のしっぽが突然生えた女子生徒がいて……その日、彼女の首元には、女子大生には似つかわしくないくらいの、いかにも高価そうな真珠のネックレスが――――」
ったく……前から思っていたが、サークルにも入ってないってのにこいつの顔の広さは何なんだ。っと、今は突っ込むべきはそこじゃなくて。
「で? まさか、動物の入ったことわざだとか言葉が、それと関係あるだなんて言うんじゃないだろうな?」
「ご名答!」
鳥井の人間の手に拍手されてしまった俺は、げんなりしたようにため息をつく。
「はぁ……そんな訳ねーだろ」
「いやいや、最近何やら言葉遊びが流行っているだろう? その証拠に、KACでもおかしなお題が多いじゃないか」
「KAC? なんだよそれ」
「そんなわけで、僕はこんな姿になってしまったんじゃないかな?」
「呑気に分析してる場合か。お前なぁ、その頭でこれからの人生、どーすんだよ」
「大丈夫だよ」
鳥井は涼しい鳥顔で言ってのける。
「それならば、自分がその動物の言葉にふさわしくない中身になればいいのだよ。実際、豚のしっぽが生えた女子生徒は、ネックレスを外すと即座にしっぽは消えたそうだし」
「え、マジかよそれ……」
「だから、僕が次の課題を忘れずにきちんと出せば、この頭は元に戻るはずさ!」
それを聞いた俺は内心安堵すると、鳥井に一つ提案をする。
「……じゃ、今度は俺が、忘れっぽいお前が課題を忘れてないかチェックしてやる。次の課題はいつだよ?」
「えーと確か、一週間後……あれ、案外短いな」
「は? 短いってなんだよ。お前その頭、早く元に戻したいだろ?」
「うーん、まあそうなんだけど、実はもうちょっとこの姿を楽しみたいところもあるんだよね。この姿になってからの方が、なぜか女子が喋ってくれるようになって、今、人生初のモテ期が……」
「あーもう、勝手にしろ!」
俺は鳥井の話にこれ以上付き合いきれず、鳥井宅での家飲みを切り上げ、鳥井の家を後にした。
その後、鳥井はどうやら鳥の頭の自分が気に入ったようで、あえて課題を出さずにしばらくの間、とりあえず鳥の頭で過ごすことにしたらしい。
ったく……鳥井のやつ、課題を出さないままで、鳥井を「鳥頭」呼ばわりしたその教授の授業の単位を落としたとしても……それどころか一生鳥の頭で過ごすことになったとしても、俺は知らないからな!
『とりあえず鳥頭』 完
とりあえず鳥頭【KAC2024 6回目】 ほのなえ @honokanaeko
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