カクヨム様、あなたの作者を信じて

諏訪野 滋

カクヨム様、あなたの作者を信じて

 KAC2024・第6回のお題「トリあえず」。作者のあなたは、どう感じられたでしょうか。きわめて個人的な感想で恐縮ですが、私は少し残念だったな、と感じています。どこがどう残念だったかと言いますと、「トリ」がカタカナで指定されていること、これに尽きます。いや、厳密には指定されてはいなくて、運営様的には「とりあえず」でも「トリアエズ」でも「Toriあえず」でもOKなのかもしれませんが、それを明記していないところが、多くの作者様を困惑させている点だと思っています。

 そして明記されてない以上、お題を確実に実行するには「トリあえず」をそのまま小説に組み込むしかない。ここで多くの作者様はオリジナリティを出すために頭をひねることになりますが、この場合「トリ」と「あえず」を分けて考えなければならない可能性が高い。するとどうなるか。トリ……トリ……ハットリ? チリトリ? そしてトリを何とかしたとしても、あえず、なんてどうしようもない。いや、どうにかすることができるかもしれませんが、ちょっと面白いものにはなりそうもない。そして多くの作者たちは、結局そのまま普通の小説に「トリあえず」なんて異物を無理くりに押し込むことになる。


 何が言いたいかと申しますと、私はこのような言葉遊びが面白いとは正直思えないのです(ここも個人的な意見であることに注意)。なぜ運営様が「トリ」をカタカナにしたのか。きっとKAC2024の皆勤賞がトリのキーホルダーとブックカバーだから、これに関連付けて遊び心で「トリ」としたのでしょうが、私はこのような盛り上げ方ははっきり言って無用だと申し上げたい。これがただ単に「とりあえず」という何の変哲のないワードであったとしても、いやむしろその方が、作者の自由度は飛躍的に高まったはずです。もし「音さえ同じなら文字は自由に変更してもいいよ」と運営様が言ってくれていたならば……。ひねったお題の方が挑戦し甲斐がある、なんていうのはお題を出す側の幻想であって、平凡なお題を提示して初心者でも参加しやすい土壌と雰囲気を作りだすこと、そして熟達者には個性を存分に発揮させてその発想で読者を唸らせる場となることこそが、このようなコンテストの意義ではないかと思うのです。

 じゃあ「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」はどうなのか、「っきー」じゃないのか(失礼)。これこそ大喜利の妙味、奇想天外なシチュエーションをいかに組み込むかというところが作者の腕の見せ所で、「トリあえず」の言葉遊びとは全く質が違うと断言させていただきたい。様々なバッファローで、私がいかに笑わせて頂いたことか、敬虔な気持になれたことか。あえて言おう、私が「トリあえず」で満足する作品は恐らくないだろうという事を。


 私はカクヨムに本格参戦してわずか三か月の若輩者ですが、運営様の盛り上げたいという情熱はひしひしと伝わってきます。様々な企画、作者同士のネットワークの尊重……。だから、今回のような小説の自由を言葉遊びで縛るような小細工などなくても、我々は十分盛り上がらせていただいてますよ、とお伝えしたいのです。他人のふんどしで相撲を取っているのにけしからん、とおしかりを受けるかもしれません。嫌ならコンテスト自体に参加するな、とのお言葉ももっともだと思います。かくいう私も五回目まで参加したのだから今更もったいない……というコンコルド効果があることも事実です。でもやっぱり私は「トリあえず」という言葉に、手の鳴るほうに一本道を歩かされるもやもやを感じてしまうのです。


 カクヨム様、あなたの作者たちを信じてあげてください。たかがコンテストのワンワードに大袈裟な、と思われるかもしれません。でも私たちはそのワンワードに自分の魂を削っているのです、言葉だけが私たちをつないでいるのです。

 この場所と集まっている作者様が私の宝なので、チラシの裏に書けばいいことを書いてしまいました。目に留まることもないとは思いますが、益々の発展を祈念しています。

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