13.「一年半前とは違う」

 東洋囲碁で初めて五段に昇段し勢いに乗っていた最中、囲碁部の先輩のKさんと久しぶりに対局する運びとなりました。


 Kさんは私より三学年上なのでこの時はすでに卒業していたものの、上智の大学院に進学したためごくたまに部室にも顔を出していたようです(私は部室で会うことはありませんでしたが)。

 彼は本エッセイの【7.「ネット碁初段じゃ基本のきの字が関の山?」】に登場しており、囲碁部に入りたての私を三子で破っています。記載は省きましたが、大学一年の終わり頃に定先で打ってもらったこともありました(そこそこ善戦しましたが負けており、実力差を痛感しました)。


 今回はネット対局で、初の互先。

 Kさんは東洋五段か六段だったと思います。Kさんはネット碁があまり好きではないようで「ネット碁だと棋力落ちるかもしれない」とも仰っていましたが、そうは言ってもトータルでアマ六段格の実力であることは間違いないでしょう。


 私の黒番。この頃もやはり“攻め”を主体とする打ち方を継続しており、目外しの布石で打ちました。


 https://24621.mitemin.net/i424588/

 黒5まで、当時よく打っていた布石です。

 黒5と天元の横に構える手は私のオリジナルではなく、ネット上の見知らぬユーザーの模倣です。初手天元などはよくあるものの、一路横に構えるというのが珍しく、またオシャレだなといたく心惹かれました。

 

 この布石はKさんとの対局前からそこそこ練習を積んでいたため、どういう考えで打ち進めるかという自分なりの大まかな構想はあったように思います。

 棋譜の全容は惜しくも残っておりませんが、白6以降このような進行になりました。

 https://24621.mitemin.net/i833267/

 黒7の変則的なシマリや黒11のカカリ一本で黒13と隅を大きく構える打ち方は、当時好んで多用していました。

 このへんの打ち方は、当時興味を持ってよく並べていた王銘琬おうめいえん先生の碁にインスパイアされたのだと思います。右上も右下もスカスカの構えで白からはいくらでも荒らすことができますが、安易に打ち込んでくれば厳しく攻め立てて主導権を握ろうという心積もりです。

 また、黒7と一杯にツメていることで、右辺の白の二間ビラキに対してもまだ攻めを見ているつもりで、そこへの圧力なども含めて天元横の石をうまく働かせられればという思惑がありました。


 碁の解説が長くなりました。

 本局は序盤から私のほうが特殊な布石を活かして積極的に打っており――今にしてみると、いろいろと突っ込みどころはあるはずですが――、対するKさんは全体的にいささか大人しすぎたように思います。作り碁になり、黒の五目半勝ちで終局しました。

 

 春の団体戦以降、後輩のIくんに早碁で勝ったり、特訓コースに通って勉強したり、強くなっている実感は自分でもそれなりにありました。

 しかしそれでも、一年半前には三子置いても勝てなかったKさんにまさか互先で勝利できるとは夢にも思っておらず、対局を終えてもしばらくは現実を疑わずにはいられませんでした。

 Kさんはどうにも本来の実力を出し切れていない感がありましたが、「去年三子置かせても余裕で勝っていた相手なのだから、手堅く打っていても問題なくいけるだろう」という気持ちがあったのかもしれません。


 たった一局の白星。それだけで、Kさんと同等のレベルに達したなどと考えるのは不遜にもほどがありますが、それでも自分は確実に強くなっている。それはまごうことなき事実であると実感しました。

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変則布石でネット碁八段になった私が、これまでの囲碁歴を振り返る サンダルウッド @sandalwood

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