12.「基礎はいくら学んでも学びすぎることはない」

 何月だったか忘れましたが、この時期に日本棋院の教室に入会しました。

 中学時代のジュニア囲碁スクールとは異なり、年齢制限のない一般向けの教室です。『特訓コース』という名称の、一番上のレベルの教室に入りました。


 教室は毎週金曜日の夜にあり、大学の講義の後に参加していました。

 上智大学のある四ツ谷と日本棋院のある市ヶ谷はすぐ近くで、歩いても十分くらいなのでアクセスはとても便利です。


 以前お話しましたように、当時の私の棋力は東洋囲碁三段~四段程度。

 その程度の棋力でも日本棋院の甘口基準では十分高段者扱いで、特訓コース入会時点でいきなり六段で打っていたような記憶があります。コース内で最も多い段位層が四段~六段ぐらいだったので、全体の中でも上のほうでした。

 ちなみに、参加者の年齢層は六十代以上の方が最も多く、推定四十前後の方が一人いたことを除けば平均年齢は高かったです。私のように二十代――入った頃はぎりぎり十代だったか――の人は誰もいませんでしたね。


 日本棋院の教室に入った理由は単純で、より本格的に囲碁の勉強をしたいと思ったからです。

 囲碁部の活動は不定期で、毎日相手がいるとは限りません。新入部員がいるとはいえ、四年生の強い先輩方が卒業してしまったこともあり、対面試合における練習相手の幅は以前よりも狭まってしまったといえます。ネット碁や棋書での学習ももちろん継続してはいましたが、やはり強くなるためには専門家に教わるのが一番だろうと考えました。

 

 特訓コースは尾越一郎おごしいちろう先生が担当されており、毎回一時間ほど講義を受け、残り時間は受講生同士の対局or先生の指導碁(多面打ち)という流れです。

 中学時代から何名かの先生に教わってきましたが、個人的にはこの尾越先生の教室が一番印象に残っています。一番記憶に新しいからというだけでなく、様々な学びや出会いがあった環境でした。それらの具体的な内容についてはまた追って別の回で記せたらと思います。


 講義の内容は、次の一手問題や詰碁の解説など一般的なものに加え、受講生同士の対局や先生との指導碁の解説が毎回あり、これが非常に勉強になりました。

 プロ同士の対局の解説は中身が難解すぎて理解が追いつかないこともありますが、アマチュアの棋譜が題材のため、一手一手の解説がとても身近に感じられました。

 アマがつい打ってしまいがちな俗手や悪手を知ることができたり、プロからすれば当然の一手でもアマの場合は間違えやすい局面の急所を知れたり、あるいはそもそも発想になかった打ち方や新しい筋を習得できたり。


 大学一年次にそれなりに独学したこともあり、この時期には基礎的なことはそこそこ身についていたようにも思います。ただ、基礎といえども低段者が習得すべき基礎と高段者が習得すべき基礎ではレベルも異なってきますので、基本的な内容はいくら学んでも学び過ぎることはないでしょう。


 尾越先生の軽快かつ明快な解説も相まって、教室は受講生同士の対局よりもその前の講義のほうが楽しいとさえ感じていました(もちろん対局もそれなりに楽しかったですが)。

 週一回の教室ですので急激にレベルアップするようなことはありませんでしたが、(ネット碁基準の)高段者になるために必要な基本的スキルをじっくり着実に磨いていき、大学二年の秋頃には東洋囲碁五段に昇段できたと記憶しています。

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