11.「日常の陰キャは盤上で陽キャになり得るか」

 春季団体戦の大高目に初挑戦した一局を境に、私の碁は徐々に変化していきました。

 それまではどちらかというと守り主体の棋風でしたが、積極的に攻めを考える打ち方に興味をそそられました。高目や大高目のような着点は実利に甘いため、確かに攻めを重視した打ち回しのほうが自然です。往々にして隅の地は譲る展開になるも、代わりに築いた勢力(厚み)を活かして戦っていく要領ですね。


 しかし、碁風の変化は単に着手の問題のみならず、私自身の性格が影響していたように思います。

 私は人見知りが激しく、例えば自分から他人に話しかけるとなれば結構な重大任務です。また、集団の環境や活動も苦手でそのような場面では普段よりも緊張が強まり、最近では主治医からASD(自閉スペクトラム症)傾向の強さも指摘されています(知能検査の結果に鑑み、正式な診断はつきませんでしたが)。

 当時からそのような傾向があることも一因となり、対人関係において消極的になりがちな自分でも、盤上であれば積極的になれるかもしれない。自分らしさを表出できるかもしれない。そんなふうに考えて攻めの碁を打つようになったのかもしれないと、今となっては感じます。


 ここでもうひとつ、忘れられないエピソードがあります。

 団体戦が終わった少し後に、Iくんと練習碁を行いました。普段は対局時計を使わず打っていましたが、この時は一手二十秒か三十秒かの早碁でした。


 ニギって黒番。私は、初手を五の五に打ちました。大高目と同様に中央志向の手です。

 ただ、大高目の場合は相手のカカリ方次第で小目や高目の定石に還元し得るのに対し、五の五はそういうケースは稀で、大高目と比べて定型らしい定型も少ないように感じます。その点、五の五のほうが慣れていなければ扱いが難しいかもしれません。

 https://24621.mitemin.net/i833235/

 白の小目に三手目は高目。白は残る隅も小目と、実利に辛いIくんらしさが表れています。


 https://24621.mitemin.net/i833239/

 黒19まで上辺を拡大した打ち方は、当時としてはかなり思い切った打ち方でした。ここまでの進行は今改めて見るといろいろと言いたいこともありますが、今回は省略。

 

 https://24621.mitemin.net/i833243/

 白20は早碁の勢いか、早々に黒模様を意識して入ってきましたが、いささか時期尚早の感があります。

 白36でだいたい治まりましたが、この出来上がり図は黒の勢力が上方から下方へと移動したに過ぎず、白成功とは言えないでしょう。

 中央から下辺にかけての黒模様は――まだ隙こそ多いものの――深く、黒からはR11のオサエも好点。場合によっては上辺の白に対してまだ寄り付きの具合もありそうです。


 以降は手順を憶えていないため割愛しますが、最後は黒の三目半勝ち。

 Iくん相手に初めての白星。まだまだ総合的な実力は及ばないとはいえ、この一勝は自分にとって非常に大きな価値があり、ひとつの自信になりました。


 大会で学んだ、“大胆さ”と“勇敢さ”を携えるということ。日頃の生活の中で発揮しきれない“攻め”の姿勢を表出すること。これらがプラスに働いた結果、ひとつの壁を超えられたのではないかと思います。

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