僕の天敵は可愛らしい顔をした女の子の姿をしていた
新巻へもん
マンマミーア
目覚まし時計が鳴る前に目が覚める。
今日から僕も高校生。
期待と不安で胸がいっぱいだった。
それで柄にもなく早起きしてしまったらしい。
アラームを解除してベッドから起き上がる。
カーテンをちょっと開けるとどんよりとした曇空だった。
いやあ、日頃の行いがいいからだな。
入学式に相応しい天気じゃないか。
真新しい制服の袖に腕を通す。
身仕度を終えて洗面所の鏡でチェックをした。
うん、決まってるじゃないか。
リビングに顔を出し、母さんに挨拶をする。
「お早う」
「あら、今朝は随分と早いのね」
朝食を食べて身支度をした。
玄関まで見送りにきてくれた母さんがすまなそうな顔をする。
「ごめんね。入学式に出てあげられなくて」
閉まったままの父親の部屋の扉に目を向けた。
僕は肩をすくめる。
「まあ、もう高校生だし。母さんも仕事忙しいでしょ? 仕事頑張ってね。じゃ行ってきます」
電車通学をするのも初めての経験だった。
混んだ車両に乗り、1度乗り換え、高校に到着する。
体育館での型どおりの式典が終わり、教室に移動した。
ざっと見たところ、特に面倒くさそうなことになりそうなクラスメートは見当たらない。
まあ、受験勉強を頑張ったからな。
マンガか何かに出てくるようなコテコテのヤンキーは居そうにない。
これは平穏な高校生活が送れそうだと思っていると、若い担任の先生が今日から一緒に学ぶ留学生がいると話した。
へえと思っていると扉が開いて女子生徒が入ってくる。
「モニカ・クレメンテです。ボン・ジョルノ」
男どもが色めき立ち、女子生徒もため息を漏らした。
まさに清楚な美少女という雰囲気をたたえている。
ただ、栗色の瞳の目元には妙な熱っぽさを帯びていた。
僕はというとちょっと身構える。
イタリア語を話すこういう目をした女性には注意した方がいいと本能が告げていた。
モニカの席は僕とは対角線の位置になる。
今後の授業の進め方などのガイダンスが終わると自己紹介をすることになった。
座席順に前に出てくると次々と自己紹介をする。
モニカさんの順番になった。
「トリあえず、1つお願いアレマス。ヴアンピーロ、キューケツキ、見た聞いた教えてくだサイ。私コロしマス」
にっこりと微笑みを浮かべる。
表情と発言内容のギャップが酷い。とりあえずで始める内容じゃないだろう。
数瞬後、クラスは熱狂に包まれた。
ヤバいヤバいヤバい。
モニカさんはヴェンデッタ修道会のヴァンパイアハンターだ。
ガチで吸血鬼絶対殺すマンの集団である。
日本では大人しくしている分にはわざわざ捜索して息の根を止めるという偏執的なまでの集団はいない。
まあ、国には怪異を管轄する組織があるらしいんだけど、今まで現実にお目にかかったことはなかった。
で、僕はバンパイアの父と日本人の母から生まれたハーフバンパイアである。
八重歯がちょっと目立つけど許容範囲なので疑われたことはない。
少なくとも今日現在までは。
モニカさんにはバレないようにしないといけない。
僕の命も微妙なラインだし、父さんは確実にやられる。
あまり家から出ない父だが在宅でそれなりに稼いでいるので、死なれると経済的に立ちゆかなくなってしまうだろう。
母さんも泣く。
新生活早々に正体を隠し続けるという困難なミッションが始まってしまったのだった。
僕の天敵は可愛らしい顔をした女の子の姿をしていた 新巻へもん @shakesama
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