第12話 アンチコメント


 博士の研究所で、今日は勇太くん、さつきちゃんが一人一人、パソコンの前で何かを打ち込んでいます。


 少し前から二人は実際に小説の投稿を始めていました。勇太くんは異世界転生物の小説を、そしてさつきちゃんは、悪役令嬢物を始めたようです。


 そんな二人を前に博士も珈琲を飲みながら自分の作品を書いていました。


「あ、またこいつだ……。ほんとムカつく!」

「ん? 勇太くんどうしたんだ?」

「こいつが、応援コメントの所にアンチコメントばかり書くんです」

「ま、こういった不特定多数に向けた投稿サイトじゃよくある事じゃよ」

「でも、ここは応援コメントですよ? 全然応援になっていませんよ」

「ウエブ戦士としてやっていくにはまずそこは越えなければいけない壁なんじゃよ」

「そ、そうなんですか……」

「最低ですね」


 さつきちゃんの声に、勇太くんがチラッとさつきちゃんに目をやれば、さつきちゃんからも剣呑とした雰囲気が漂っていました。


「はい……。ブロック」

「え? さつきちゃんブロックしたの?」

「馬鹿はいらない」

「えっと?」

「勇太くんはブロックしないの?」

「だって、この人だって大事な読者だし、PV一つでも増えればって……」

「勇太くん。私たちの目指すPVはどのくらいだと思うの?」

「え?」

「万を超えるPVが、そして万を超える☆が必要なの。書籍化の為なら」

「だ、だから一人でも読者を……」

「ネガティブコメントを見て、読むのをやめる人がいると思わないの?」

「え……。と」

「汚物は消毒するの」

「汚物?」

「そう。私のコメント欄は常に綺麗でいなければならないの。気に入らなければ去れ。よ」

「あ……。う、うん」


 さつきちゃんの勢いに勇太くんはたじたじです。

 それ見ていた博士が笑いながら助け船を出します。


「ふぉっふぉっふぉ。読者対応は人それぞれでいいんじゃよ」

「は、はい」

「コメントが荒れるのが嫌で、コメント欄を閉じる作家もいる。そうやって自分を守るやり方もあるんじゃ」

「はい」

「ラノベは現在ではほぼ、オタク向けの文化じゃ。わかるか? そういったオタク向けの趣味嗜好の作品では、オタクな読者の趣味嗜好も様々になる。これだけ多くの読者が来る場じゃ。自分の趣味に合わない作品を攻撃したくなる人間も出てきてしまうんじゃ。これはしょうがない事なんじゃ」

「全員に好かれる作品って……」

「大人気で百万部を超える売り上げを果たした作品でさえ、コメント欄にはアンチが湧くものじゃよ」

「そんな……」

「これは、不特定多数の人間と対峙する作家の、決して逃れることのできない宿命なんじゃ」

「分かりました。僕もアンチに負けません!」

「かといって無駄に攻撃はしない事じゃ、あまり喧嘩になると、外部の掲示板で名指しで攻撃してくるような、病的な輩もいるからな」

「それは怖いですね……」

「だから、黙ってコメントを消すか、しつこい相手はブロックをする。放っておいてもひどいコメントは運営が削除してくれるがね」

「運営さんも?」

「そうじゃ、作者の味方だと思って良い。カクヨムは作者の味方じゃ」

「はい!」


 勇太くん少し挫けそうになっていましたが、どうやらまた元気が湧いて来たようです。明日の投稿分をカチャカチャと書き込みます。


「はぁ……。こいつもブロック」


 さつきちゃんは掃除を続けていました。

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ライトノベル作家への道(カクヨム編) 逆霧@ファンタジア文庫よりデビュー @caries9184

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