銀髪村娘と砲金のドナーブッセ 外伝 トリあえずどうしよう?

土田一八

第1話 トリあえず、どうしようか?

 魔導書を確認した王様は激怒して怒鳴った。


「なんだこれは‼ハズレ勇者ではないのかっ⁉」


 怒鳴られてるのは召喚された俺ではなくて、召喚術を施した銀髪ダークエルフの召喚術師とその責任者である魔導師団長らしき若きイケメン男である。


 その理由は、俺の見た目がドナーブッセを持ったその辺の村娘風情だった事と、王様が特別視している攻撃魔法が一つもないにもかかわらず、俺が公式かつ正式に勇者として魔導登録されてしまったからだった。

「おい!そこの小娘!もう、用はない。サッサと出ていけ‼」

 国王といえども一旦魔導登録したものは取り消し不可能なので、とりあえず、俺をハズレ勇者だと宣言し、勇者に任命する事を拒否して儀式を放り出してしまった。


 よーするに俺は、呼んだけど、ヤッパリ気に入らないので、もう、お払い箱という事らしい。しかも出てけとハッキリ言われちゃったし…。魔導師団長の命令を受けた衛兵がこっちにやって来る。…アレ?



 衛兵は俺の脇を素通りし、拘束・連行されたのは召喚術師の銀髪ダークエルフの方だった。


 俺は宮廷吏によって別室に案内されて丁重に扱われた。人間兵器にならずに済んだと思えば、ハズレ勇者もまんざらではない。だから、全然怒っていない。そもそも怒られたのは俺ではないし。その場で騒いだって意味がないからね。とりあえず、今は待たされている時間を使って俺の姿や持ち物を確認し、得物であるドナーブッセのドーラに魔力を注入する。

「ふわぁ」

 ドーラは起きたが、まだおねむなのか?とりあえず魔力を満タンにしておく。


 その頃、侍従長室には、宰相、侍従長、騎士団長、宮廷魔導師団長の四人がとりあえずどうしたものかと集まって善後策を協議していた。

「召喚した勇者の処遇について協議したい」

 宰相が話を切り出す。

「最初に断っておきますが、陛下はかの者を“ハズレ”と決めつけられましたが、正真正銘の勇者である事は証明されております事を、留意・配慮していただきたい」

 宮廷魔導師団長が釘を刺す。

「では、どうしろと言うのか?」

 騎士団長は、しかめ面で宮廷魔導師団長に詰問する。

「それなら、私に妙案が」

 侍従長が案を提示する。

「彼女を冒険者に仕立て、陛下の機嫌を損ねぬよう我が国から出てもらいましょう」

「それは、確かに妙案だな」

 騎士団長は理解を示す。宰相。宮廷魔導師団長も賛同した。

「そうすると、先立つモノが必要だな」

 宰相は独り言を言った。

「本来なら、召喚された勇者には召喚謝礼金として大金貨百枚が支給される決まりになっております」

 宮廷魔導師団長が説明する。

「その為の予算処置はされているが、予算執行に必要な陛下のサインはもらえぬな」

 宰相は浮かない表情をする。

「なら、機密費から支出しましょう」

 侍従長が提案する。

「うむ。その手があるな」

 宰相も同意する。

「しかし、使っても使った分だけ補充される宮廷機密費や官房機密費といえどもそんな大金を使って大丈夫か?」

 騎士団長は侍従長と宰相に質問する。侍従長と宰相は互いに顔を見合わせる。

「とりあえず、それなりの路銀を渡しておけばいいんじゃないですか」

「うむ。確かに。国を出る人間にわざわざ大金を与える必要もないだろう」

「どうするんだ、宮廷魔導師団長?」

「そうですねぇ…それでも、金額はそれなりの誠意を見せる必要がありますし、勇者を納得させられる理由付けや今後の処遇についての明示も必要でしょう」

「ふむ…それは、そうだな」

 宰相は腕を組んで思案をする。

「そういう事なら、私に考えがある」

 侍従長は、自分の考えを披露する。


 勇者に与える金は宮廷機密費から目立ちにくい銀貨で、疑われない程度とする。

 王宮名で冒険者ギルドへの紹介状を勇者に与えて処遇について疑われないようにすると共に、冒険者ギルドに王宮からの指示を与えて勇者を国外に出させる。


「おおっ‼さすがは侍従長殿」

 騎士団長は、拍手喝さいを侍従長に向ける。

「金額はどうするんだ?」

 宰相は侍従長に質問する。

「大銀貨二百枚はどうでしょう?」

「革袋二つですか。…かなり微妙なところですね…彼女がどう思うか」

 宮廷魔導師団長は神妙な顔つきで言う。こればかりは本人の価値観次第だからだ。

「足りないと、申すのか?」

 騎士団長は宮廷魔導師団長に質問する。

「大銀貨二百枚は結構な大金ですが、異世界から召喚されたという事情を考慮すれば金貨二枚程度で納得されるかどうか」

 宮廷魔導師団長は懸念を表明する。

「………」

 宰相は考え込んでいる。

「ふむ…」

 脳筋で知られる騎士団長もさすがに考えているようだ。

「さすがに銀貨では説得力が無いか?」

 反応の冷たさに侍従長は、思わず寒気を感じた。

「さすがに、金貨はくれてやった方が心証が良いのではないか?」

 騎士団長は苦言を呈する。

「もしかして、宮廷の金庫は空っぽなのか?」

 宰相は心配顔で侍従長に言った。

「そんな事はないっ!断じてないっ‼」

 侍従長は立ち上がって宰相に猛反論をした。

「本当か?」

 宰相はジト目で侍従長を見やる。

「本当だっ‼」

 侍従長は本気で全力否定をした。


「オッホン。失礼した…」

 取り乱した侍従長は咳払いをして座り直す。といっても妙案がすぐに思い浮かぶ訳ではなかった。

「宮廷機密費は革袋単位で取り扱っているのか?」

 宰相は何気なく侍従長に質問した。革袋は貨幣の種類に関係なく百枚ずつと決まっている。

「いや。金庫での保管に関しては、運搬の都合上麻袋に入れてある。革袋は小出しの時だ。官房だって同じだろう?」

「それだ!」

 宮廷魔導師団長は立ち上がって大声を出す。

「なにか、閃いたな」

 騎士団長はニヤリと笑って口ひげを撫でる。

「ええ。金貨でなくとも大丈夫かも知れません」

 魔導師団長は自分の考えを披露する。


「ひそひそ、かくかくしかじか………」

「それなら、こうしたらどうだ?」

「これは、こうしよう」

「すばらしい…」


 こうして、結論は無事に導き出された。


「では、各自、行動に取り掛かろう」


 侍従長は自分の執務室に戻り、金庫を開けて大銀貨が詰まった麻袋を一つ、部下に担がせた。


 宰相は執務室に戻って冒険者ギルドに紹介状と指示書を作成する。


「では、頼んたぞ」

 宰相は侍従長に紹介状と指示書を兼ねた書簡を納めたスクロールケースを手渡した。

「任せておけ」

 スクロールケースを受け取った侍従長は胸を張って力強く答えた。そして勇者が待つ部屋に部下二名を連れて向かった。

「頑張れよ」

 宰相は親友の背中を見送った。



 人の気配がしたので、俺はマギアチェストを収納する。


 がちゃ。


 ドアが開き、役人が三人入って来た。このうちの一人は王様の隣に立っていた人物だった。

「すみません。お待たせしました。侍従長のモーリッツと申します」

 その人物は物腰柔らかく頭を下げた。

「どうも」

 俺は冷ややかな態度で応じる。

「誠に遺憾ながら、我がラーフランド王国は、ルーメア フェリア殿を御意により、王国勇者として召し抱える事は叶わない事と相成りました。しかしながら、我が王国は貴殿を召喚した責任があり、善後策を用意いたしましたので、どうか、ご容赦を賜りたく存じ上げます」

 どすっ!

 目の前のテーブルの上に重そうな麻袋が一つ音を立てて置かれた。これを担いで来た人は重かっただろうな。実際、担いできた人は体格がいい人だった。

「こちらの麻袋にはドラグーン大銀貨一万枚が入っております。どうぞ、お納めくだされ」

 一応、鑑定しよう。間違いはないようだ。

「どうも」

 俺は仏頂面で返事をする。何もくれないよりはマシか。

「それから、王宮発行の紹介状を差し上げますので、冒険者ギルドで見せていただければ、悪いようにはなりませんよ」

 冒険者になれという事か。安直だが、致し方無いだろう。

「分かりました」

「こちらが紹介状です」

 スクロールケースを受け取る。銀製の立派な装飾が施された筒だ。高そうだな。

「こちらが冒険者ギルドへの地図です」

 折り畳まれた紙を受け取る。

「どうも」

 それらをランヤードに括り付けてあるポーチにそれらを仕舞い、麻袋を体現させたマギアチェストに入れ、コートと手袋を取り出してマギアチェストを収納する。

「それでは、城門にご案内します」



「お世話になりました」

「お達者で」


 侍従長に見送りまでされて平和的に王城を立ち去る。で、冒険者ギルドに行って紹介状を見せたらギルマス自ら対応してくれて、俺は冒険者ランクでは伝説級最高位ランクである白金銘板の冒険者となった。

 とりあえず、この国の外に出られるクエストがあるかと半分冗談で聞いてみた。

「ある」

 と、真顔で即答されて紅茶を吹いてしまった。


 クエスト内容を聞いて、ギルマスと一緒に商人ギルドに行く。クエスト内容は雪中隊商の護衛だった。


 そして今、トナカイが牽く橇に乗っている。明日には国境を抜けられるらしい。


 俺は異世界で新たな一歩を踏み出した。


                                  完

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