まさお日記

某月某日

　——春はもうそこまで来ているよ。

　そう言って聞かせた舌の根も乾かないうちに気温と天候が乱高下する日が続き、まったくついて行けない私はしっかりと振り回されて、くたくたに伸びております。

　ねぇ、どうして、どうして猫ってさぁ、倒れてる人の背中を平気で踏んだり、「そこ通り道なんですけど退いてくれません？！」みたいな酷いことを当たり前の顔で言うんですかね。……うん、猫だから？　はい、確かにそれはそう。

　という具合に、季節どころか猫のまさおくんにも蹂躙されつつ日々を過ごしております。

　さて、数日前から夏休みに入りました。以前の職場もそうでしたが、今回の職場でも有難いことに五日間の夏期休暇を与えられたので、業務スケジュールの落ち着いている期間にどーんと取得させて貰いました。苛烈な猛暑で傷んだ身体をヨシヨシして、今後やって来る強烈な酷暑に備えたいと思います。

　夏休み初日は美容室に行って髪を綺麗に染め直してもらい、リバイバル上映中の「海がきこえる」を観てきました。ジブリ作品の中でもマイナーだけど氷室冴子先生原作の物語で、瑞々しい感情が痛痒くて甘苦い、名作です。名作だけど……今のご時世じゃ炎上しそうなので（まぁ、ほら、未成年飲酒とか。その他諸々がコンプラ的にアレですよね）地上波放送なんかはハードルが高いんだろうなと思う面もあったり。そんなこんなで鑑賞できて幸せな時間となりました。アオハルパワーを補充できた感じ、します。

　二日目は、美容室のシャンプー担当の店員さんから教えて貰ったとても強力なパワースポット、人形町の小網神社にお参りしてきました。なにしろ、夏休みの前日に受けた健康診断で自分でも見たことのない血圧高値を叩き出してしまいまして……たぶん、このところ飲み続けている漢方の副作用だと思う……思いたい……んですが、問診の医師からは反論の隙を与えられない速度で怒られたし、散歩ついでに神頼みして来ようかと。

　仕事がデスクワークでほぼほぼパソコンに噛り付いて過ごすので片道三十五分の徒歩通勤、お酒に関しても試しに飲んでみたノンアルコールのチューハイが思いがけず美味しくて、先月くらいからずっとノンアル+日本酒を一合未満（しかも週三日飲むかどうか）という……自分にしては革命が起きていたにも関わらずのハイスコア……。まぁ、この所の猛暑で自転車通勤に切り替えてしまったのもあるけれど、ちょっとショックなものがあったのですよ。

　こちらは金運と厄除け、健康と学芸の神社らしく……ほぼ完ぺきなラインナップです。お参りを済ませ、福禄寿さんに健康祈願し、人生初めての「銭洗い」なんかもトライし、平日の午前中だというのに大賑わいの社務所に並びます。

　老若男女多国籍に入り乱れる列の中、前に並んでいたご婦人の手元からハンカチが落下するのを目撃。「は……あの、あのぅ、ハンカチ落とされましたよ～」「あら、どうも」のやり取りから地続きでなんとなくお話が始まります。

「遠くからいらしたの？」

「あー……まぁ、都内ですが、こちらは初めて来ました」

「そうなの。私は何度か来てるんだけどね……ここ、凄いのよ」

　なぜか声をひそめるご婦人に合わせて、一緒に声をひそめます。

「なるほど。……なにか、おススメはありますか？」

「そうね……でも、今日は子供にお守りを買いに来たの。無事帰る、のカエル守り。」

「……いいですね」

　ではお先に、とご婦人が注文をしている間に辺りを見回すと、お守りと並んで開運ブレスレットというのが売られています。水晶やオニキスなんかで出来ていて、シンプルだし、着けておいても違和感無さそうかな、でも少しお高いかな、なんて眺めていたら、隣の列の老婦人がそれをざくざくと十本くらい、更にはお守りも一ダースくらい注文し購入していく姿が。……何故だか一気に慄いてしまい、夫のために厄除けと金運上昇の可愛らしいチャームと、自分のために弁財天さんのシンプルなお守りを購入して終わりに。人の欲とか、希望とか、思いの強さとか、そんなようなものを肌で感じた気持ちになる時間でした。うーん、あれは確かにパワースポットだった。

　帰宅後、YouTubeを開いて粛々と初心者向けのストレッチや有酸素運動から手を付け始める私に、きっと良いことがありますよう願うばかりです。ヨガマットの上で足をバタバタさせたり体を捩っては戻す飼い主を見るまさおくんの目が、どうかもう少し、優しくなりますように。パワー。