【KAC/甘くないお仕事SS6】反省会はスイーツと共に

滝野れお

反省会はスイーツと共に

 昼休みが終わり、黒狼隊の官舎に戻ったキアは、厨房で固くなったパンをサイコロ状に切りながら「ひとり反省会」を始めた。

 こんな時にパン救済スイーツを作ろうと思ったのは、手を動かしていないとドツボにはまりそうだったからだ。


 やむを得ない事情があったとはいえ、キアは上司であるイザック・リベリュル隊長に抱きついてしまった。


「わざとじゃないけど、あれはマズかった……」


 サイコロ状に切ったパンを甘い卵液に漬けながら、キアはハァ~と溜息をこぼした。


 足がもつれて階段から落ちたキアを、偶然現れたイザックが助けてくれた。

 長身なイザックの肩ごしに見る急な下り階段はかなりの迫力で、キアはもう一度墜落する恐怖にうろたえて、彼の首に抱きついてしまったのだ。


 イザックは文句も言わずにキアを抱えたまま階段を上り、丁寧に下ろしてくれたが、恐る恐る見上げた彼の顔はひどく不機嫌で、キアは冷や汗をかきながらひたすら頭を下げ続けた。


 パサパサのパンに卵液がすっかり染み込んだのを確認して、トリ型のケーキ型にシナモンシュガーと交互に入れる。

 いつもなら、スイーツが完成に近づくとワクワクするのに、今は少しも心が浮き立たない。


「こんなんで、あたし、出張に行けるのかなぁ?」


 キアの出張先は、南の隣国グランウェル王国だ。

 我がラキウス王国の王太子殿下と、グランウェル王国の王女様との間に婚姻の話が持ち上がっているらしく、秋の建国祭に来訪される王女様を、王太子殿下の護衛騎士であるイザックが直々に迎えに行く。

 そう、今回のキアの仕事はイザックのお供なのだ。


「はぁ~ぁ」


 もはや恥ずかしくて顔を合わせられないが、とりあえず仕事は仕事。割り切らねばならない。

 相手の王女様も侍女を連れて来るだろうが、こちら側にも女性がいる方が良いだろうという心遣い。それがキアなのだ。


 十個のトリ型のケーキ型をオーブンに入れてしまうと、手が空いてしまった。


「とりあえず、荷造りするか」



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