春。内覧。親心。 [バキコとワンズ君⑤]
ハマハマ
不動産屋お姉さんの今日のお仕事は――
けっこう色々とあったらしいワケ。あの子たち。
バキコちゃんの方は花も恥じらう女子大生。
なのに
ルックスだって内見に来た頃より断然垢抜けて可愛くなってたしでね、結構忙しくしてたみたい。
高座名が激烈にふざけてたせいもあるみたいなんだけどねぇ。
それに対してワンズくんの方はって言うと、これが案外と真面目に専門行ってたワケ。
授業も忙しいしテストも大変なんだけど、実習が特に大変らしくってさ。
でも意外よね。
あのワンズ君が医療関係って。
理由聞いたらまぁ納得なんだけど。
中学で野球頑張りすぎて肘やって、そん時に良くしてくれたセンセみたくなる、とかで。
『俺もリハビリのセンセになる!』なんて心に決めてたらしいワケ。
順調に実習も
三年制の専門だったワンズ君はひと足先に卒業して、この春めでたくバキコちゃんも卒業するの。
で春からは落語家さんの卵ってワケ。
「じゃ今度の卒業公演で大学で使ってた高座名――
「え!? ユリちゃんも観に来てくれるの?」
「当たり前じゃない。仕事サボって観に行くわ」
「さすがだぜユリ姐」
この子たちを初めて内見に連れてった頃からもうすぐ丸四年。何度も一緒に麻雀して、卓囲む
わたしったらいつの間にやらすっかりこの子たちのお姉さん気分、なんだか親心まで育ってるからね。
あ、そうそう。ちなみにワンズ君よりバキコちゃんの方が麻雀強いんだよ。笑っちゃうよね。
で、今日三人で集まってるのは麻雀ではなくて、わたしの本業の方なワケ。
四年前は
意味としてはおんなじなんだけど、内見ってのは賃貸で、内覧ってのは分譲住宅。
思い切ったよね、ワンズ君。
まだ給料も安いのに家、買うんだって。
『家賃払うよりローン払った方が良くねぇ?』
ってのが彼の言い分。
『どうせバキコとこれからずっと暮らすんだし』
ってサラッと
バキコちゃんの卒業とともに籍入れるんだって、この子たち。
「あ、会社に電話しなきゃ。ちょっと車戻ってくるから好きに
そう言い残して玄関ドア開けて閉めて、
二人っきりにしたらあんたたち、どうせイチャイチャするんでしょ?
こっそり聞き耳たてて抜き足差し足。
――あん。 ちょっと、ダメよワンズくん
おいおいあんたら。あっという間にイチャイチャしてんじゃん。
――うぅん、ダメ、止めちゃダメ
ワンズ君の声は低くて聞こえにくいな。
――うん、そう、放さないで
…………分かってるよ、わたしには。
どうせ肩揉んでるとか掌揉んでるとか、どうせそんなでしょう?
ワンズ君はマッサージなんてお手のものだしね。
ガチャっ! と勢いよく扉開いて戻ってみれば。
そのバキコちゃんのお腹のとこから手突っ込んでるワンズ君。
揉んでた。
乳を。
バっ、――バカじゃないのこの子たち!
クソ!
なんでわたしには彼ピがいないのよ!
春。内覧。親心。 [バキコとワンズ君⑤] ハマハマ @hamahamanji
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