第10話 この先も僕達は
あれから2週間、特段なにか起きることも無かったが、今日、何故か僕は警察署に来ていた。
「本当に悪いね、緋色君。これで何回目だっけ?」
「刑事さんと顔を合わせるのは、多分事件の日含めて7回目ですよ」
僕は出されたお茶を1口啜った。
冷たい麦茶、美味しい。
「そういえば、今年ももう衣替えの季節か、夏服、やっぱりデザインが良いよね!!」
「それはわかります、あとは、着心地の良い生地なので、学校で着ていてもストレスにならないのが本当に助かります」
「いいね〜、俺達の職種はストレスしかねーから、そういう生地で服作りたい」
刑事さんは、向いの席にドカッと座り、麦茶を啜った。
「それで、今日は何様なのですか?」
「あ〜、いや特に何かあったとかではなく、一応未成年が犯罪に巻き込まれたからメンタルヘルスってやつをやらないと行けなくてさ……」
「なるほど、そのために近況とか、今不安になってる事とかを聞いて、人生の先輩とアドバイスするってやつですね」
「ん〜、大体はあってるが、俺が聞きたいのは、お前達の関係だ。餅月さんとは、どこまで行ったんだ?もうヤっちまったか?」
「アンタ一応警察だろ、仮にヤったとしてもそんな事ここで言えば未成年淫行の現行犯じゃねぇか!!」
「まあ、そうなるよな。でもな、俺から言わせれば、お前はまだ甘いよ。男なら手を出す時は出さないといけねぇもんだぞ。特に、女の誘いは基本断らないようにしないと、お前は捨てられるぞ」
「分かってますよ、小春が僕には勿体ないくらいの女の子なのは……」
「おっ、惚気か?」
「いや、そんなんじゃないですよ!!ただ……」
「ただ?」
「僕も前に進んでもいいのかなっと思って……」
「そうだな、お前も気苦労がすごいもんな」
「まあ、うちの親もあんなですし。あとは、ようやく人を愛することがなにか分かりそうっていうのもあって……」
「そっか……、なんか成長したね緋色君」
「そう……、ですか?」
僕はほんの少しだけ嬉しくなった。
「んじゃまあ、精神面は問題なさそうだからもう今日は帰っていいよ」
「んな雑な!!」
「はよ帰れ、お前を待ってる人がいるんだろ?」
「はい、ありがとうございます。それでは」
僕は椅子を引いて立ち上がった。
「あ、そうだ。親御さんから、たまには実家に顔見せに行けって伝言だ」
「今度、お盆になったら行きます」
「自分で伝えろよ、先ぱ……じゃなかった、親御さんに」
「はい、じゃあ失礼します」
僕は荷物を持ち上げ、応接室から退出しそのまま警察署を後にした。
帰り道、ひとりで歩くのはすごい久しぶりに感じる。
いつも隣に君が居たから、僕は少しの心配りと楽しさを感じていられたのだろう。
でも、結局今はひとりで歩いている。
少し強くなった日差しを背に、烏の声と少し早い初夏の暑さが纏わりついて、ほんの少しだけ吹く風が少し心地よいこの家路を歩いている。
「たまには、ひとりで歩くのも悪くねぇや……」
日の入りが遅くなり、まだ明るい時間である今は、何処か寄っていこうかと思えるが、家で待ってくれてる人に心配をかける訳にはいけない。
軽い足取りのまま、僕はあの部屋に向かって歩いている。
私は今、大切な人の帰りを待っている。
大好きで、愛していて、そして最大の恩人であるあの人を。
「今日は警察署に寄って帰ってくるって言ってたからお米だけ仕込んでおきましょうか……」
私はお米を研ぎ、炊飯器のスイッチを押す。
そして、彼が毎日眠るベッドに腰掛ける。
部屋を見渡すと、やはり広いけど狭い……。
机に置かれたモニターとゲーム機とコントローラー、ご飯を食べる用のコタツ兼テーブルとして使えるローテーブル。
そして、彼の匂いが染み込んだベッド……。
ふと思い出す、私が初めてこの部屋に入った日の事。
彼がここで眠っていて、耳元で囁いて起こしたんだったっけ?
私は彼が普段使っているであろう枕を抱きしめ、そのまま顔を埋める。
彼の匂いが鼻を通り全身に浸透する。
こうやって匂いを嗅ぐと彼に包まれているようで安心するのだ。
でも足りない。
もっと彼の傍に居たい。
もっと抱きしめて欲しい、頭撫でて欲しい、もっと先までしたい。
もっともっともっともっと……
さらに強い力で枕を抱きしめる。
…………
どうやら、私はそのまま眠ってしまったらしい。
ガチャっ
鍵を開け、家に入る。
どうやら今日は家に誰もいないのだろうか?
いや、米が炊ける匂い、どうやら米の仕込みをしてくれているらしい。
僕はキッチン兼廊下を抜け、部屋の扉を開ける。
何ら変哲もない一人暮らしの部屋だ。
しいて言うなら、そこにメイド服の女の子がベッドの上で僕の枕を抱きしめて可愛らしく眠っているだけだ。
うん、違和感しかない。
僕は起こさないようにベッドの脇に座る。
が、即座にメイドさんは僕の膝に頭を乗せ、「えへへっ」と可愛く笑った。
乗られたのなら仕方ない。
僕は軽く頭を撫でる。
安心したのか、僕の太ももに顔を埋めるメイドさん。
「流石の僕も顔を埋められるのは恥ずかしいから、勘弁してくれないか?」
「えへへ、いいじゃないですか、ご主人っ!!私、ご主人の匂いが1番落ち着くんですよ」
「あぁ〜、それは匂いフェチとかそっちの……?」
「違いますっ!!」
少し頬を膨らませ僕の方を向くメイドさん。
「私、ご主人のことが大好きです」
「うん、知ってる」
「私、愛してもらわないと生きて行けません」
「うん、知ってる」
「もっと一緒にいてください」
「うん、もっと一緒にいよう」
「もっと撫でてください」
「うん、いつまでも撫でてあげるよ」
「もっと話し聞いてください」
「うん、もっと話をしよう」
小春は僕の頬に手を伸ばし、軽く撫でる。
「もっと私を愛してください」
僕は小春を抱きしめ、唇を重ねた。
「僕も君を付き合うことで好きって気持ちも、愛したいって気持ちもまだ上手くわからないけど、少しわかった気がするし、君を大切にしたい。だから、もっと話をしよう、もっと笑おう、たまに喧嘩もしちゃうだろうけど、その時は仲直りしてまたこうやってくっつこう……」
僕は再度小春を抱きしめる、もう二度と離さないという意志と、少しの優しさを含んだ強さで。
「僕に貴女を笑顔にする義務と隣で一緒に笑っていられる権利を下さい。僕は、小春を愛しています」
その瞬間、小春の頬を一筋の雫が通った。
首筋にその雫が当たる感覚でわかった。
「はい、これからも、私を愛してください。これからも私に貴方を愛させてください!!」
僕らは小春の涙が止まるまで抱き合っていた。
学校で一番人気の美少女に告白して玉砕したら、何故か隣の席に座る眠り姫と付き合う事になったらしいお話 汐風 波沙 @groundriku141213
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