【短編版】スライムテイマーの異世界改革 ~スライムは意外となんでもできますよ?ご存じでない!?~

物部

第1話

「は~、何がどうしてこうなったんだろうなぁ……?」


 平凡に村で暮らしていたはずの俺は、ひょんなことから公爵家の執事見習いとして、公爵家令嬢であらせられるシュガーお嬢様をご主人様としてお側についている。

 ただ、このお嬢様かなりわんぱくというか、お転婆というか……とにかく、色々と俺に無茶ぶりをするのだ。


 ――いや、別にいいんだけどさ。俺自身が働くわけじゃないし……


 そう、このお嬢様。どこから持ってくるのかという変なお仕事を持ってくるのだ。

 俺はそれを解決するのが主な仕事となっている。

 まあ、執事見習いだし、ここに雇われた経緯も特殊だからそれはいいのだが……

 屋敷の中の仕事もほかの人がやってくれるから問題はない。


 ――あれ? 俺、屋敷の中での仕事してなくね?


 と、とりあえず、ご主人様が俺に働けと言うのだから、今はそれでいいか。

 今日も今日とて、屋敷の仕事を「さあ、やるぞ!」と意気込んでいるところに、シュガーお嬢様がやってきた。


「ロイ! 仕事を持ってきたわよ! 今日はそっちに行きなさい!」

「『今日は』って、昨日もそう言って外に行かされたんですけど……」

「いいじゃない別に。あなたはお金がもらえる。私は依頼人から覚えがよくなる。二人でお得、あなたがいつも言っているウィンウィンという奴じゃない」


「そうは言いますが、俺にも仕事が……」


 屋敷の仕事を覚えたいんだという構えを取ってみたが、どこからか見習い仲間たちが現れて掃除道具を奪われる。


 ――お、お前ら~! 俺を売りやがったな!?


 仲間にニコリとしたいい笑顔で仕事を奪われて、俺はお嬢様の命令に逆らうことが出来ない状態にされてしまった。


「ほら、仕事はなくなったわね? じゃあ、今日はルワイ伯爵のもとで働いてらっしゃい。仕事内容はいつも通りよ。いいわね?」


「はいはい、わかりましたよっと……」

「返事は一回!」

「……はい」


 有無を言わさないような強い視線で命令された。

 俺が観念した様子にシュガーお嬢様はご満悦のようだ。

 今日は夕方には帰れるといいなあ。仕事内容もいつも通り、か。

 面倒だなあとため息を吐きながら、相棒たちをつれて仕事の準備をする。



 ◇◇◇



 公爵家の馬車でドナドナされてやってきました、ルワイ伯爵家。

 あー、あー。もう庭に成金趣味かよと言わんばかりの金ぴかの像があるよ。

 どうか、どうか! その金ぴかがメッキでありますようにと、俺はやけくそ気味に祈りながら伯爵家の中を案内される。


「おお、君が公爵家の掃除屋かね? 随分と若いんだね?」

「は、ハイ。わたくしめが、その掃除屋だと思われます……」

「ぬふふっ、いいじゃないか。早く仕事が終わったら、私の部屋に来るように」

「あ、あははっ……では、さっそく仕事をしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「うんむ。言われた通り部屋に用意させている。早めに終わらせるように」

「ゼンショシマス……」


 おいいいい! シュガーお嬢様ああああ!

 明らかな変態貴族のもとに俺を送るんじゃねええええ!

 視線が顔から始まって全身を舐めまわすように見てたぞ、あのオッサン!

 普段の仕事に加えて、そういうのは勘弁してくれよ!


 俺は内心でお嬢様に悪態をつきながら、仕事部屋に入る。

 部屋の中には、机の上に大量の書類。それと、汚れたカーペットや絨毯が雑に置かれていた。



 それじゃあ、さっさと仕事を終わらせてここから脱出しますかね。

 あの変態貴族にはもう会いたくないが、お嬢様が俺に仕事をさせるってことはそういうことなんだろうな。

 はあ~、本当に嫌になるね。貴族って奴はさあ。


 まずは相棒たちに汚れたカーペットの掃除を任せる。


「じゃあ、アクアとジュエルにはカーペットと絨毯の掃除を任せるな?」

「ぴゅぃ!」「ぷぃ~」

「頼んだぞー」


 そして、一部にはいつものように秘密の仕事を任せるのも忘れない。


「エアロとステルスはいつものように隠されてる書類を持ってきてくれるか?」

「ぷっぷぅ~!」「……」

「ステルスの仕事にはいつも期待してるから頑張ってくれ、なっ?」

「っ……!」


 相棒のスライムたちに仕事も任せることが出来たし、俺は俺で机の上の書類仕事をしますかねっと。


 この異世界では、前世の地球でちょっと計算できるかな?という程度の俺でも、書類仕事では重宝する。

 そのため、仕事をしない貴族の家では計算能力がある奴が雇われて、屋敷の執事たちの仕事を手伝うのだ。

 もちろん、人に見せていい書類しかこの部屋にはないだろうけどな。


 この異世界に転生して、しばらくしてから自身にテイマーとしての才能があることが分かった。

 試しにテイムしたスライムが、あまりにも有能だということに気付いてからは、村で日々楽しく過ごしていた。


 たくさんのスライムに囲まれて暮らしていたがある日、偶然狼の魔物に襲われていた公爵家の馬車を助けてから、俺の人生設計が狂ってしまった。



 なんでこんなことになったのかなあと思いながら、相棒であるスライムたちを見る。


 スライムのアクアとジュエルの二匹で協力して、カーペットと絨毯の洗濯中だ。

 アクアが魔法で水を出して、汚れを浮かす。

 それから、ジュエルが汚れの原因となる土や砂利を体内に取り込む。

 すると、あっという間に綺麗なカーペットと絨毯の姿が現れる。

 最後に、余計な水分をエアロが吹き飛ばすのだが、あちらは別の仕事中だ。


 エアロとステルスも協力して、この屋敷に隠された裏帳簿などの書類を探してもらっている。

 エアロが風の魔法で、においや音を操作して人間の意識を逸らす。

 ステルスは認識阻害の魔法で姿を隠す。

 あとは金庫などを見つけたら、スライムの柔軟な体で金庫内に侵入するだけだ。


 さて、みんなの仕事が終わるまで、俺は俺で書類の計算仕事だ。

 あの変態貴族のせいで、計算速度が上がった気がする。早く逃げ出したいよ……




 よし、書類仕事はおしまいっと。

 ここから逃げたい一心でやったら結構捗った。まったく嬉しくないな?

 アクアとジュエルは……おっ、エアロとステルスも帰ってきてたか。

 おかえり、お疲れ様。


 さてさて、エアロにはカーペットと絨毯の仕上げをしてもらう。

 ステルスからは報告代わりに隠された書類を受け取って、俺はその確認に入る。


 ――は~、本当にやる気のない貴族ほど無駄が多いし、やらかしが多いな。


 俺はささっと、金の動きを確認して用意されていた計算用の木の板にメモする。

 違法な契約書などは内容を確認して、持ち帰るべきものと手元に残して証拠にさせるものを選別しておく。



 仕事はこれでおしまいっと。持ち帰る書類をステルスに預ける。

 さて、仕上げに入りますかね~。


「ジャス、大きくなって扉を塞いでくれ」

「ぶふぅ~」

「ありがとう、これでこの部屋には誰も来ないな。ここ三階だし」


 俺は窓を開けて下を見るが、この高さを登れるような人はたぶんいないだろう。

 あとは連絡用の花火をあげてもらおうかな。


「フレム、赤い花火を空に向かって五回打ち上げてくれる?」

「ぴぃっ!」


 ドォンドォンと大きな音を鳴らして、赤い花火が空に咲く。

 まだ明るいけど、色は確認できたかな? 念のために、煙でも出してもらうか?


「スモーク、赤い煙を出してくれる? あっ、無害のでお願いね?」

「ふーっ!」


 よし、赤い煙が窓から上がっていく。これで狼煙代わりになるだろう。

 あとは異変に気付いた騎士団が来るのをのんびりと待ちますかね?



 ◇◇◇



「また君かね? いつもと同じ音が鳴って狼煙が上がっていたから、今日は非番だったのに、わざわざ私が呼ばれたんだが……」

「あー、いつもすいませんね。イダル様」

「まったくだよ……それで? 今日の首尾は?」


「こちらになります」


 俺はいつもようにこの騎士――イダル様に悪事の証拠となる書類を渡す。

 書類を確認した彼はため息を吐いて、非番なのにと呟いて恨めしそうに俺を見る。


 ――いやまあ、それが騎士様の仕事でしょうに。


 内心でそんなことを思いながらも口には出さない。

 この騎士様はすぐに手が出るんだ。俺はもう学習した。


「それじゃあ、俺はもう帰っていいですかね? 迎えの馬車も来てますから」

「はぁ……いいよ、行って。あとはこちらの仕事だ」

「ああ、それとですね? カーペットと絨毯はいつものようにお願いしますねー」


「……くそっ、余計な仕事増やしやがって!」


 イダル様の拳骨が俺の頭に振り下ろされた。いってええええ!



 ◇◇◇



「それで、首尾はどうでしたの?」

「はい、シュガーお嬢様。こちらが違法な借金関係、こちらとこちらもですね。中には借金で、娘さんなどが奉公に出されていますね」

「では、借金関係のお金はあなたの店から補填しなさい。いつものようにね」


「わかりました。奉公に出された者はどうしますか?」

「まずはこちらで休ませて、適性を見て仕事を斡旋します。家族といたい方はすぐに家族のもとに送るから、心配しなくて大丈夫よ」


 俺はその言葉に安心した。

 いつものように仕事をこなしても、後味が悪い部分が多い。

 それをこのお嬢様は平民にも心を砕いてくれる。とても優しいお嬢様だ。


 どうせあの貴族の家はそれなりの罰金を払うことになるので、カーペットと絨毯も売り払う。それを騎士団から口を利いてもらい、俺が経営する店に卸してもらう。

 それを売りさばくことで、俺の店はウッハウハだ。


 まあ、今回のように借金の補填に回すので、無駄遣いできるほど金があるわけではないんだけどね。

 お嬢様もその辺りは、借金を背負った彼らのためにとしっかりしている。


 さて、これで今日の仕事は本当におしまいだ。

 退室して休もうとしたら、お嬢様に声をかけられる。


「じゃあ、ロイ。いつものようにジャスは預かりますね」

「食後には一度返してくださいね? それと、朝までですからね?」

「わかってるわよ。ほら、下がりなさい」


「それでは、のちほど。ジャス、頼んだぞ」

「ぶふぅ……」


 す、すまない、ジャス。そんな声を出さないでくれ……

 俺が部屋を出て、その場で立ち止まる。


 ――ジャスちゃああああん! ほら、いつもみたいに大きくなって!


 部屋の中からシュガーお嬢様の大きな声が漏れ聞こえる。

 ジャスが大きくなれることを知ってからは、クッションにされているようだ。

 前世でいう『人をダメにするクッション』の代わりだと思う。


 この異世界でも大きなクッションは好まれるんだなあと遠い目をしてしまうよ。

 きゃっきゃと笑うシュガーお嬢様の声を聞きながら、自室に向かう。


 さて、スライムたちに餌となる魔力をあげましょうかねえ。

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