しばり

@soasoa25

第1話

なぜかそれがどういうきっかけで始まったのか、全く記憶にないのです。

小学校の二年生位の時だったと思います。

私は常にそれに縛られて、苦しい思いをしたことが度々ありました。

自分で自分のために勝手に作ったルールです。

その中で一番覚えているのが、一度角を曲がると反対側にもう一回曲がり直すと言うルールです。

わかり易く言うと、右にニ回曲がったら、今度は左にニ回曲がるという事です。

それだと目的地につかないのでは?と不思議かもしれませんが、道路を大きく曲がるとか言うのではなく、室内でのルールです。

ルールを破った時は、ごめんなさいを三回言うってルールも決めていました。

一番その縛りにきつくはまっていた頃のことです。

母の友人の家に遊びに行くことになりました。

そこで悲劇が起こりました。

そこにはとても美人のお姉さんが二人いて、上のお姉さんが私より四つ年上、下のお姉さんが一つ年上でいつもおしゃれでかっこよくて、キラキラした私の憧れの姉妹でした。

母は仲良しのおばさんと、一階のリビングでおしゃべりして盛り上がっています。

私は二階のお姉さんたちの部屋で遊ぶことになりました。

その時まで私はウキウキしていました。

お姉さんたちの家に来た事は過去に何度かあって、いつも仲良くしてもらっていたのですが、その時は本当に自分への縛りが一番きつかった時でした。

お姉さんの部屋は玄関入って廊下を進み、右の階段を上り、もう一度右に曲がったところにある部屋でした。

右に一回もう一度右に一回……。

私は部屋に入った途端、そわそわし始めました。

お姉さんたちはかわいい椅子に腰掛けるように言ってくれました。そして正面に座って私の顔を見ながらいろいろ優しく話しかけてくれます。

私は左に二回曲がらないといけないと言う気持ちで頭の中がいっぱいになり、お姉さんたちの話しかけてくださる言葉が上の空になってきました。

でも今の状況でそれをやると、椅子から立ち上がってお姉さんたちに背を向けることになりますし、急にどうしたんだろうと驚かれることでしょう。

私はお姉さんたちが大好きだったので、嫌われたくなかったのです。

ごめんなさいを三回、それを二回分、つまり六回言う方が目立たないだろうと思いました。

とにかく、気づかれないように。

でも声に出さないとルールを守ったことにならない、と言う決まりも作っていました。

苦しかったけど、ルールを守りました。

口の右の端を小さく開けて言えば目立たないかなぁと思って言いました。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

いつも優しく微笑んでくれていたお姉さんの顔から笑顔が消えました。

お姉さんたちの視線が私の口元に注がれました。

そして、その時さらに不幸が起こりました。

最後のごめんなさいの〈い〉だけがどういうわけか、ものすごいハイトーンになってしまって、頭の上から抜けていくような声になってしまいました。

美人のお姉さんたちの硬直した顔が、今でも忘れることができません。

それからほどなく、お姉さんたちは、家庭の事情で引っ越されてもう会うことがなくなってしまいました。

あの時怖い思いをさせて申し訳なかったと思っています。



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