第2話 目を離さないで

 翌日の会社での昼休み。普段はコンビニで昼食を買うことが多いのだが、今日は卯月が早起きして弁当を作って持たせてくれた。機嫌がいい証拠だ。よかった、昨日のことでまだ怒っているんじゃないかと思ったけど、取り越し苦労だったようだ。


 保冷バッグを開けると、中から見覚えのあるタータンチェックが顔をのぞかせた。


 これはまさか!


「めずらしい。九条さん今日はお弁当なんですか?」


 ちょうどデスクのわきを通りがかった林さんが親しげに話しかけてくる。


「わー、そのハンカチ使ってくれてるんですね! 嬉しいけど、お弁当包むのに使われるとは思わなかったな。わりといいものなんですよそれ」

「あ、そうなんだ。ごめん、知らなったよ……」


 震える手でハンカチの結び目をほどく。大丈夫、いつもの弁当箱だ。何を恐れているんだ俺は。自分にあきれて小さくため息をつき、ふたを開けた。


 次の瞬間、林さんが飛び上がった。


「えー!! すごい、かわいい!!」


 卵焼き、ほうれん草のナムル、ひじきの炒り煮、星形のにんじん。彩り豊かなおかずの中央を飾るのは、ウィンナーとご飯と海苔でできたうさちゃんおにぎり。


 中身は気合たっぷりのキャラ弁だった。


 林さんが上げた歓声のおかげで、わらわらと人が集まってきた。


「九条さんの彼女が作ったんですか!?」

「お前、愛されてるなあ」

「わあ、写真撮らせて!」


 なんかもうえらい騒ぎである。


「こんな素敵なお弁当を作ってくれる彼女がいたんですね。ちょっぴり残念」


 林さんは俺にだけ聞こえるようにつぶやくと、くるっと向きを変えて給湯室のほうへ去っていった。


 みんなに褒められた、卯月とうさちゃん弁当。でも俺は素直に喜べない。


「ずーっと目を離さないでいるよ」


 うさちゃんが今にも卯月の声でしゃべりだしそうだった。


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ずーっと目を離さないでいるね 文月みつか @natsu73

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