【KAC20245】初めてのキス~はなさないで

saito sekai

忘れられない青春の1ページになる

最近、僕が片思いしている百瀬透子さんがマフラーを編んでいる。放課後、窓辺に座って、無心に針を動かす横顔をチラリと見る。おっと、ここで自己紹介。僕の名前は「田中伊吹」名字はありきたりだけど、伊吹はなかなかカッコいいだろ?それはさておき、彼女が編んでいるものは明らかに、メンズ向きなマフラーだ。一体誰に渡すのか…とても気になる。


僕より背の高い彼女が転校してきたのが、二年前の秋だった。茶色い髪に色白、その瞳は星の様に瞬いている。そんな彼女に一目惚れをしてしまった僕なのだ。


でもその恋は希望が持てないと考えていた。彼女より5センチも背が低い僕なんか、対象外だろう。そんな切ない気持ちだったが……


ある時から、ふと視線を感じて振り向くと、彼女が僕を見つめているのに気付くことが、度々起こる様になったのだ。

…いやぁ…まさか、そんなこと、あり得ないよね、神様。


そして、遂にお別れの卒業の時が来てしまった。僕は勇気をもって百瀬さんに告白することに決めた。


LINEのアドレスなんか知らない僕は、下駄箱にメモを入れた。


「卒業式の後、3時に校庭で待つ。田中伊吹」


式が終わり、皆帰った校庭に一人佇む。果たして来てくれるだろうか…

校庭は満開の桜が散り始めていた。今日の桜は一生忘れられないだろう…

僕は校門をずっと見続けた…その時、彼女の姿が!


「ごめんね、少し遅れちゃった」息を弾ませ百瀬さんが、何か包みを持ってやって来た。そしてそれを差し出し「はい、プレゼント」と言うではないか!


「えっ、僕に?」「そうだよ、あなたを思って編みました」それは例のマフラーで、小さな手紙付きだ。ドキマキして心臓が高まり出す。そっと開けたその手紙の文字は「伊吹君、大好きだよ」だったのだ…!


「ぼ、僕は君の事が好きだ。そう言いたくて呼び出したんだよ!」


「ええっ!」と同時に言った後、二人は暫く見つめ合った…時間が止まったような、そんな不思議な感覚…


ふぃに彼女は「伊吹君!」と叫んで、僕に抱き付いてきた。その時僕の鼻に彼女の唇が当たった。


「うわっ、ごめんね」と離れようとする彼女を僕は強く抱き締めて、「はなさないで、“鼻”だけにさ」そう言って僕は踵を上げた。完

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