ショータと子猫

おはなしねこ

ショータと子猫

その子猫は、小さな川沿いの小道に捨てられていました。小さな段ボールに入れられて、一匹だけで、暖かい毛布もなく、ご飯もなく、ただ漠然と、そこに置かれていました。


たくさんの人がその箱の前を通り過ぎました。ほとんどの人が、その箱の存在に気付かず、足早に歩き去りました。ごくたまに、中を覗き込む人がいましたが、そのような人はたいてい軽く微笑みそのまま立ち去るのが常でした。


子猫が捨てられてから、人間の時間で1日が経ちました。

子猫はもう、お腹がすいて、あともう少しで、息絶える寸前でした。

そこに、一人の男性が通りかかりました。

子猫が目をつむって、苦しそうにうずくまっているのを見たその男性は、少しばかりあたふたとしましたが、その段ボールを抱えて、動物病院へと運びました。


子猫はもうあまり意識がなくて、詳しいことは覚えていませんが、

気付くと、暖かい家の中にいました。


にゃー、にゃー。

小さい声でないてみました。

誰にも聞こえないくらい、小さな声で。


そうしたら、あの男性が奥の部屋から出てきて、

子猫の横にそっと座りました。


「目が覚めたのかな? お腹はすいていないかな?

ボクはショータだよ。仲良くしようね」


男性はそう言って優しく微笑むと、暖かい手で子猫を撫でました。

子猫は、嬉しくて、勢いよく喉をゴロゴロと鳴らしました。


すると、隣の部屋から、ゴージャスな猫たちが、ワラワラと出現しました。

メインクーン、アメリカンショートヘア、ペルシャ、シャム。。。

どの子もみんな、高級な猫ちゃんです。

どの猫たちも、ショータが拾った猫たちでした。

その見目麗しい、ツヤツヤの猫たちが、ショータのかたわらに集まり、撫でてくれ、触ってくれとせがみます。

ショータは一匹ずつを丁寧に撫でまわし、幸せそうに笑みを浮かべて、みんなに声をかけて回りました。


子猫は、少し、寂しくなりました。


暖かいおうちに入れてもらえて、ご飯ももらえて、それなのに、みじめさが突然子猫の中に湧き上がりました。自分は何のとりえもない、白黒ハチワレ猫なのだ。


気付いたら、子猫は、段ボール箱から飛び出して、換気のために少しだけ開いていた窓から、外へと飛び出しました。


ゴージャスに肥えた猫たちには決して通り抜けることのできない狭い隙間でしたが、そのみすぼらしい子猫には通り抜けることができたのです。


子猫は夢中で走りました。

私がいるべき場所は、あの場所ではない。

無我夢中で走った子猫は、本当に疲れてしまいました。


子猫は、走ることを諦め、トボトボと真冬の夜空を見上げながら歩きました。

三日月が空の中ほどにかかっていて、子猫の行く先を照らしました。


気付くと、最初に捨てられていた川のほとりに戻って来ていました。


子猫は灌木の茂みに体をあずけ、横たわりました。


どれくらいの時間がたったのでしょう。


ある痩せてギスギスした顔をした男が、暗がりに横たわる子猫を見つけました。


その男は、子猫を抱きかかえて、自分の家に連れて帰りました。


子猫を連れて帰った男は、ニヤニヤとした薄気味の悪い笑顔を顔にうかべ、

子猫の腕と足を切りました。


男は、四肢のない子猫をあざ笑い、おもちゃにして、最後に首を切りました。


子猫は、耐えがたい苦痛に身をよじりながら、息絶える間際にショータの顔を思い浮かべました。

優しくなでてくれたショータの顔を。。。

ショータの笑顔を。。。


その時、子猫は、何か暖かくて大きなものに突如体をすくわれました。


目を開けると、目の前にショータがいました。


灌木の茂みで眠りこけて、悪い夢を見ていた子猫をショータが見つけてくれたのです。


ショータは子猫に軽くキスをすると、暖かい毛布の入ったカバンの中に優しく入れて、家まで連れて帰りました。


家に帰ると、ゴージャスな猫たちが、子猫を心配して、子猫の周りにワラワラと集まり、なめたり、くるまったり、大切にしてくれました。

子猫は、もう疲れてそのまま寝てしまいました。


月日が経ち、

ショータのゴージャスな猫たちが、次々と天国へ旅立ち、

ショータも老いには逆らうことのできない年齢になりました。


子猫は、あれからずっと、ショータのそばで、ショータを見ながら過ごしてきました。

すべてのゴージャスな猫たちが天国に行ったあとも、子猫だけが、ショータのそばでショータを見守りました。


ある日の朝、子猫がいつも通りに、ショータの膝の上にのってウトウトしていると、

ショータが大きく息をして、目を大きく見開いて、そして、静かに目を閉じました。


子猫の横で、ショータは天国へと旅立ったのです。


子猫の眼に大粒の涙が浮かび、ボロボロとこぼれ落ちました。


もう子猫ではなくなったその猫は、そのザラザラとした小さい舌で、ショータの亡骸を何度も何度もなめました。


次の日、ショータが自分にもしもの事があった場合を考えて、毎日家にきてもらうよう手配していたペットシッターさんが、ショータのかたわらで眠っている子猫を見つけました。子猫は優しいシッターさんに抱きかかえられ、喉をゴロゴロと鳴らしました。子猫の旅は、まだ終わらないのです。



おしまい!!

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ショータと子猫 おはなしねこ @ohanashineko

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