5. 元日本人

「私はひいらぎ芽依めい。芽依って呼んで。で、こっちが、 」

ひいらぎ拓磨たくまです。拓磨って呼んでね。よろしく!」

お兄さんとお姉さんが日本語で自己紹介してくれて、頭の中のモールス信号変換のスイッチを落とす。

「一応私たち高校3年生だから」

「えっ⁉」

確かに大人にしては若いなって思った。この二人、結婚もすごい早かったんだな…。

「ふふ、驚いた?この世界では、16歳までに結婚してないと、警察に連行されて結婚まで一生牢屋だよ」

「えっ、本当ですか⁉」

そっか、翼兄ちゃんは16歳だから、すぐに結婚しないとヤバいんだ。

「えーっと、君は?」

「九条翼です。もう16歳なんですけど…」

「そっか、翼くん、もう16歳か。じゃあ全員結婚しちゃう?」

確かに、この世界ではそうしておいた方がいいんだろうけど…。

「大丈夫だよ、この世界では結婚って一緒に暮らす人、ってそれぐらいだから」

並行世界パラレルワールドでは結婚の価値観まで違うのか?これからのことを考えると気が遠くなりそうだ…。

「でも7人か…1人男子が余っちゃうなぁ」

「あ…俺、警察に連行されそうになっても顔面キックするんで大丈夫です」

と伊織が自分から立候補した。

「伊織お兄ちゃん、本当に大丈夫?」

心配性の鈴羽が本気マジになって伊織に縋り付いている。

「大丈夫、心配するな。俺の運動神経なんだと思ってるんだよ?」

「…ならいいけど…それでなんかあったら絶対許さないよ!」

「はいはい、ありがとな、鈴羽」

ってことで、とりあえずの結婚は、俺とひより、翔琉と萌奈、翼兄ちゃんと鈴羽のペアになった。

「これでこの世界で命の危険にさらされることはないかな!」

「ありがとうございました、これで僕らも7人で生きて行けそうです」

初対面の人と話しているせいで一人称が『僕』になっている翼兄ちゃんが柊家を出ようとするから、あとの6人も続こうとしたんだけど、「待って!」と芽依さんに言われた。

「泊まるあてもないんでしょ?これからうちに泊まりなよ!」

芽依さんの力強い説得で、僕たちは柊家に全員住まわせてもらうことになってしまった。


「拓磨さん、ここって今何日ですか?」

荷物運びとかもすべて終わって、やっとゆっくりできる時間になった時、僕たち7人は全員で拓磨さんに聞いた。

携帯電話スマホで見れればいいんだけど、ここは並行世界パラレルワールドで圏外だから見られない。

この世界では携帯電話スマホなんてなさそうだから、拓磨さんに話すと混乱しちゃうかな、って思ってやめたんだ。

「そっか、携帯電話スマホは圏外だったんだっけ」

拓磨さんはそう言って、僕たちの時代と全く同じ携帯電話スマホを出した!

「えっ、拓磨さんたちって…?」

「そう、話してなかったね。私たちは君たちで言う現代からの来客人なんだ」

「ってことは、僕らと同じような…?」

まだ僕たちは、この世界が滅亡するから、並行世界パラレルワールドに来た、っていうことは言っていない。言ったら芽依さんたちが混乱してしまうかなと思ったからだ。

だから、2人もそういう理由で並行世界パラレルワールドに来たのか、と思ってしまう。

「そう。俺らはもともと、現代の日本人なんだ。色々事情があって現代から逃げ出したくてね、それで並行世界パラレルワールドに来たんだ」

「どうやって?」

「どうだっけね、拓磨?」

「確か、もうこんな世界嫌だな、他の世界で2人で生きたいねって話してた時に、夕立が降り始めて。西の方向には太陽が見えて、反対側に大きな虹が二本出来てた。こんなに綺麗な景色が見られるぐらいなら、俺らを違う世界に連れて行ってくれ、って本気で願って、気が付いたらここにいたんだ。それが2年前の話」

2年前…ちょうど僕らと同じ、芽依さんと拓磨さんが15歳の時だ。

ていうか夕立と日光と二本虹ダブルレインボーだけでこっちにこれたなら、僕の植物の飲料要らなかったんじゃないか?

「話を戻すよ。今、ここは、2028年2月20日だよ。それがどうかした?」

え…?

2028年、2月20日って。

改めて自分の携帯電話スマホを見返す。

地球滅亡の、1ヶ月前……⁉

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未来は僕らが手に入れる。 こよい はるか @attihotti

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