第四章 僕の見えないの日常
第1話 ある異世界の日常
ジャビさまと邪神さまに助けられて、半年が経ちました。
わたしは、アリスという名前をいただきました。
ジャビさまが、つけたんじゃないです。
邪神さまに、つけたいただきました。
邪神さまはおっきくて、お空からわたしたちを見てます。
「こんにちは。おリンゴをください」
わたしは市場にきています。
ここは、海の近くのおおっきい街です。
一ヶ月前から、ジャビさまとわたしは海の近くのお家に住んでいます。
「あら、アリスちゃん。お買い物? 偉いわねえ」
「はい。お買いものです」
アリスの言葉を、アリスのフリをして、アリスの胸でブローチのフリをしているトカゲが喋ります。
この赤いトカゲは邪神さまがくれました。
「この子は君の代わりに話してくれる、ええと、使い魔? ってやつかな。でも、この子は邪神の使者でもあってね。僕のことは話そうとしても話せないんだ」
と、説明されました。
「アリスちゃんは偉いわねえ」
「はい。アリスは、わ、わたしは偉いです!」
アリスは邪神さまがつけてくれた名前が好きです。
だから、アリスをアリスと呼んでしまう時があります。
けどジャビさまから……
「真名は迂闊に言うでない。なにに利用されるか分からんからのう」
と、お叱りを受けました。
気を付けて、わたしはわたしって言います。
ジャビさまは、ジャビさまって呼びます。
「とびっきり美味しいリンゴを選んであげるわ!」
「ありがとうです」
わーい!
お店のおばさんは台の上に山積みになったリンゴから、いいリンゴを探してくれます。
待ってると、お喋りが聞こえてきました。
「ねえ、聞いた? 最後の元老院が亡くなったそうよ」
「ああ。神聖国家のね。素晴らしい人たちよねえ。国民に降りかかる禍いを肩代わりするため、自ら志願して人柱となったのでしょ?」
「元老院への祈りを捧げたあとの聖王様の演説、涙しちゃったわあ……」
「元老院の方々のために七日七晩祈り続けてたらしいわよね。あんなにやつれてしまわれて……親同然の元老院の方々を亡くされてお辛いのでしょう。でも、演説の時の聖王様は、どこか神々しかったわ」
「ええ、本当に。……あっ、新しい聖王様の補佐の方も見た?」
「褐色肌で銀髪の?」
「そう! そう!」
ワイワイと「顔がいいわ!」と騒ぎます。
「アリスちゃん! お待たせ!」
「ありがとうございます」
お店の人がリンゴをカゴに入れてくれました。
わたしはお礼を言って、すぐに帰ります。
「ジャビさまが、寄り道だめと言いました」
邪神さまも「僕は市場は作ってな、じゃなくて見れないから早く帰っておいでね」と言ってました。
早く帰ります。
早く……
早く…………
早く………………
「わあ……」
わたしのお腹は弱い子です。
お肉の串焼きは、いいにおいでわたしを誘惑するのです!
邪神の
「おいしそう」
ど、どうしましょう。
ジュルジュルと、ヨダレが、とまりません!
ジャビさまは、いつもわたしにたくさんのお金をくれます。
でも邪神さまが、
「そ、そんなに持って行ったら危ないよ! 必要な分のお金だけにしなね」
と、わたしのお金の管理をしてくれてます。
でもでも、邪神さまはこうも言いました。
「少しだけ多く入れて、欲しいものがあったら買っておいで。リンゴだけだとお腹いっぱいにならないし、他にも色々とお使いのご褒美は必要だからね」
邪神さまは、邪神さまの世界の食べものをよくくださいます。
けど、けど、
「自分の世界の食べ物に慣れるのも大事だよ。舌が肥えちゃうからね」
と言って、わたしに買いものをさせてくださるんです。
「ほしい、から、買ってもいいですかね?」
邪神さま。邪神さま。お恵みに感謝します。
わたしは邪神さまに祈ってから、いいにおいのお店に向かいました。
「きゃ!」
ドン! となって、倒れそうになりました。
「危ない!」
倒れる前に、誰かがわたしを支えてくれました。
「大丈夫?」
わたしを助けてくれたのは、きれいな三つ編みをしたお兄さん。
お兄さんはきれいなお顔で心配します。
「ごめんね。ぼくがよそ見をしていたから。怪我はない?」
「はい。ないです」
「よかった」
お兄さんはきれいに笑いました。
あれ?
なんかこのお兄さん、邪神さまの気配がします。
「どうしたの?」
「あっ、えっと、なんでもない、です」
邪神さまのことは秘密です。
話そうとしてもトカゲは邪神さまのことは話せないけど……。
それでも、わたしは邪神さまから「僕のことは内緒にしてね」と言われてるのです。
「本当に? なにかあったら言ってね」
「言わないです」
困った顔になるお兄さん。
お兄さんは、わたしじゃなくてトカゲを見てる気がしました。
「なにやってんだよ、テメーは」
そんなお兄さんの後ろから、赤毛のお姉さんがやってきました。
「すみません、先生。この子とぶつかってしまって」
「ったく、これだから元
「そのイジり方、もうやめてくださいよ」
きれいなお兄さんは笑い方もきれいです。
ジャビさまと全然違います。
ジャビさまの笑顔はすごくこわいです。嬉しくて笑ってる時でもこわいんです。
邪神さまは「こいつ、凶悪顔だなあ」と言ってました。
「ありがとうございます。大丈夫です」
わたしは深く頭を下げて、バイバイと手を振りました。
「お買い物? 偉いね。気を付けて帰るんだよ」
「帰りません。お肉です」
わたしはお肉のお店に向かいました。
「クシのお肉をください」
後ろから「可愛いですね」とお兄さんの声が聞こえます。
アリスが可愛いのは当たり前です。
ジャビさまが毎日「おーよしよし! 可愛い奴じゃ!」お言ってくれるほどですからね!
ジャビさまはアリスにメロメロってやつなのです!
「あれ? 先生、エルシーは?」
「教会に挨拶に寄るってよ。見習いシスターは大変だな」
「送り届けてくれたんですね。ありがとうございます」
「つ、ついでだ!」
きれいなお兄さんがクスクスします。
「
「うるせえ! お前、最近調子に乗ってるぞ!」
二人の声が遠ざかって、市場の人たちの声と混ざります。
もう二人の声は分かりません。
お肉のジュウジュウという声だけが、アリスには聞こえます。
早く焼き上がらないかなあ。
異世界ジオラマ 彁はるこ @yumika_ka
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