はなさない手 → はなさない者
はなさないで。
ずたずたになった手をにぎって、のどが乾いてひきつるのもおかまいなしに呼びかけつづける。
返事はない。
返事どころか、呼びかけた声に、体うごかす様子もみせない。
ううん、息をする様子も、血がかよっている様子も、いのちがまだ宿ってる様子だってみせてくれない。
いくら握りつづけていても、ぼろぼろで、つめたくて、かちかちに固まった、この手。
だけどこの人が、この手をはなしてしまったって。
そんな様子は、まだ見えてきていない。
あの場所からわたしを出してくれたこの手。
水のビンや、アメをわたしてくれたこの手。
旅立ちのときに手をとってくれた、この手。
この人は、たぶん、きっと、まだはなしていないはず。
その思い、ぎゅっ、と握りしめて。
はなしてしまいそうな私の心といっしょにして握りしめて。
はなさないで。
はなさないで。
はなさないで。
何回も、何回も、ぜったいはなさず、はなさないで、って呼びつづける。
目をとじて、耳にはなにも聞こえなくなって、
ただ、はなさないでって願いつづけて。
目を開けてみると、
ぼろぼろになった命をはなさずに、戻ってきたあなたの笑顔が。
【KAC20245】Mutual Hands 武江成緒 @kamorun2018
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